ソン・ジュンギ、映画らしい映画が作られているという確信を感じた『このろくでもない世界で』

2024年07月29日 16:30

――今作で初めてカンヌのレッドカーペットを踏みましたが、いかがでしたか?

ソン・ジュンギ:みんな、こういう時「光栄で実感がわかないし緊張する」と言っていたが、そのようなありきたりな表現をなぜしてしまうのかが分かりました。その言葉通りの心境です。カンヌに出品すると言った時、「そうなのか」と意識もしませんでした。正直「まさかカンヌに行けるの?」と考えていました。2月初めからハンガリーのブダペストで『ロ・ギワン』を撮っていましたが、撮影の真っ最中にカンヌの招待を受けたという話を聞きました。『このろくでもない世界で』で来られて、大きな感謝とやりがいを感じます。本当に苦労して撮影した、意味のある作品なので大きなプレゼントをもらった気分です。特に未来の巨匠を紹介する、ある視点部門に招待されてとても嬉しいです。カンヌで初めて観たくて、まだ試写を観ていないんです。

――『このろくでもない世界で』に出演を決めたポイントは?

ソン・ジュンギ:知人と話していて別作品の提案を受けて、慎重に断ったことがありました。「じゃあ、あなたはどんな映画をやってみたいのか」と尋ねられて、本当に深くて暗い映画をやってみたいと話しました。すると「主人公ではないけれど」と言いながら渡されたのが『このろくでもない世界で』でした。最初のバージョンの脚本は本当に疲弊していたんです。このシナリオを書いた人は本当に大人に対する期待と希望がないな、という気がして、どんな人がこのような脚本を書いたのか気になったのが始まりでした。改めて振り返ってみると何かを欲していたところ、ちょうどやりたい役が来て、それを掴み取ったという感じです。

――「釣られる」ということが映画でも重要な行動の一つだっただけに、過程も尋常ではないようです。そのように会った監督の第一印象はどうでしたか?

ソン・ジュンギ:会うやいなや、「どれほど大変な人生を生きてきたのか」と尋ねました(笑)。幸い監督本人の経験談ではないと聞いて安心しました。不思議なことに、劇中の登場人物の姿を少しずつ持っている方でした。揺れ続けるヨンギュ(ホン・サビン)のようでも、腹違いの妹であるハヤン(キム・ヒョンソ)のような面もあり、本人の中の様々な姿を繊細に引き出すことができる監督だという印象でした。

――今回演じたチゴンはどんな人物でしょうか?

ソン・ジュンギ:表面的には地元の犯罪組織のリーダーです。偶然ヨンギュを見かけて、自分の幼い頃を思い出し、まるで鏡を見ているような気持ちにとらわれ、関わり始める。問題は、それがヨンギュに本当に役に立つのか分からないということです。撮影しながらも、この部分を悩みながら撮った。チゴンは欲望が去勢されてしまったように何も望むことがない人物。ただ生きながらえているから生きている人です。

――劇中でも「生きている死体」という表現が出てきます。

ソン・ジュンギ:そうです。生きることに虚しさを抱えており、万事無気力。命令された仕事だけを遂行する機械のようというか。ヨンギュはチゴンに会って変わるが、チゴンもヨンギュに会って変わります。そのような点をどのように表現するか、監督と多くの話を交わしました。結局、答えはシナリオにありました。シナリオにあることをできるだけ忠実に表現しようと努力しました。

――善意に基づいた行動が最悪の結果につながる過程がこの映画の魅力のようです。チゴンにとって本当に気になった質問は「なぜ最後まで町を離れないのか」です。ある程度力も、お金もあるだけに離れられない状況でもないようですが……。

ソン・ジュンギ:現場で監督やホン・サビンと最も激しく話を交わした部分がまさにその質問でした。チゴンとヨンギュの最大の違いは希望の有無です。ヨンギュは「ファラン」(今作の原題、韓国語でオランダ)に漠然とした希望を抱く。それがたとえ誤った情報、存在しない理想郷でも構わない。故郷を脱出してそこに行きたいという気持ちを抱くことが重要です。一方、チゴンはすでに終わった人物です。すり減って、どこかに旅立ちたいという欲望などもうない人。ヨンギュが故郷を離れることを諦めたなら、チゴンのようになるのではないかと思う。うんざりする場所に疲れ果て、いまや去る勇気も出せない人物です。だから最後に最も卑怯な形の脱出を試みるのかもしれない。ある意味、非常に自虐的で変態的な人物でもあります。どれだけリアルなのか、理解できるのかとは少し違うと感じました。むしろ「映画的」なアプローチだと思います。

――チゴンは貯水池に閉じ込められた、すでに死んだ魚のようです。映画でも釣り場、釣り針、魚チゲなどの象徴的な物が繰り返し登場します。

ソン・ジュンギ:ヨンギュと魚のチゲを食べる場面がありますが、ヨンギュとチゴンが共感を形成する重要な瞬間です。夜中の2時頃から一晩中チゲを食べましたが、終わる頃には生臭いにおいがしました(笑)。苦労した分、場面がよく撮れたようでやりがいがありました。

――ホラー映画の現場は和気あいあいとしているという話があります。『このろくでもない世界で』は床にくっつきそうなほど重くて暗い映画ですが、現場の雰囲気はどうでしたか?

ソン・ジュンギ:熾烈ながらも平穏でした。台風の真ん中が静かなように。皆簡単ではない環境で最善を尽くしたが、その一方で撮る時は不安がなかったです。キム・チャンフン監督と主演のホン・サビンはいずれも新人なので、バランスを取らなければならないという責任感が少なくなかったが、得るものがはるかに多い現場でした。むしろ私自身にとって息を吸えるようになるための穴を開けてくれた映画だったというか、現場で癒されることが多かったです。商業的な映画を撮影する時に感じた渇きを解消する時間でもありました。本当に良い映画を作りたいという気持ち、映画らしい映画が作られているという確信ができました。責任を感じる部分があれば、このように完成された映画が最大限多くの方々に紹介されてほしい。プロモーションのためにどこへでも行くつもりです。釣り雑誌とか釣りの番組に出るべきかな?(笑)

――とても満足のいく撮影だったようですね。

ソン・ジュンギ:満足度を点数であげるとしたら93点くらい? 内心、心の中の点数は90点にやや及ばない89点でしたが、このようにカンヌまで来たから4点追加!(笑) 俳優にとって最高のプレゼントは良い作品に出会うことだという当然の事実を改めて実感した作品です。このようにカンヌで観客と会えることまで、すべての瞬間がありがたいです。



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