伝統の話芸を支えている講談師 各所で開かれている会も妙味

2024年08月14日 09:52

芸能

伝統の話芸を支えている講談師 各所で開かれている会も妙味
講談、落語などの公演が行われるお江戸両国亭 Photo By スポニチ
 【舌先三寸】神田伯山の登場で、息を吹き返した感のある講談界。1人のスーパースターがスポットライトを浴びることで業界全体が浮揚していくのはどの世界でも同じ。
 伯山は落語芸術協会に所属。出演する寄席は常に行列ができるほどの人気。独演会などホールでの会も同様とか。伯山の芸の面白さを認めた上で。判官贔屓といおうか、各所で開かれている小さな会に出掛け、伝統の話芸を支えている講談師を応援してみたい。

 8日、東京・両国のお江戸両国亭で開かれた納涼講談会「夏のはなし」を覗いた。

 開口一番、21年に入門した宝井小琴が師・宝井琴星の得意ネタ「無険鍾馗(しょうき)」でご機嫌うかがい。

 観客は約30席で7割程度の入りだが、教師に引率された高校生の姿も。

 講談は「5W1H」。つまり「いつ、誰が、どこで、なぜ、何を、どのように」を明確に語る芸。固有名詞、年号、日付、地名などが話の中にたくさん出てくる。落語の「横町の大家さんと八っつぁん」の世界とは違う。なので歴史を語るのに適している。

 続いて今回の会を企画している宝井梅福が「春日局」を一席。

 出囃子もなく、粛々と登場した講談師は、観客の拍手で迎えられ、お辞儀をして釈台を張り扇でパン!と叩き話は始まる。無駄は一切はぶく凜々しさも講談会ならではか?

 続いて一龍斎貞橘が「鋳掛屋松五郎」。江戸時代、文化年間(1804~18年)の盗賊として歌舞伎の演目にもなっている。

 うだつが上がらない鋳掛屋の跡を継ぐよりは商人になれ、と丁稚奉公に出された松五郎。ところが目から鼻を抜ける聡明さを危ぶみ「こいつは何かしでかすに違いない」と番頭、主人により暇を出される。しかたがなく鋳掛屋になる。

 家々を回り壊れた鍋や釜の修理をするのが鋳掛屋家業だ。小商いで見入りも少ない。盛夏の両国橋。松五郎は貧しい枝豆売りの母子と行き交う。裸足で足の裏が熱いとぐずがる子ども。全く売れていない枝豆。母子の窮状を哀れんで懐からありったけの銭を出して渡す。

 炎暑の陽は照りつける。「お天道様はなんで貧乏人ばかり照らしやがる」。いまで言う格差社会。「駕籠(かご)に乗る人、かつぐ人、そのまた草履(ぞうり)を作る人」と世の矛盾を嘆く松五郎。橋の下に屋形船が通る。芸者や幇間を乗せてのどんちゃん騒ぎだ。

 自然と笑いがこみ上げてくる。「こんなことやっていて何になる」と鋳掛屋の道具を川へ投げ捨てた。房州と武蔵の境である両国橋が「善悪の分かれ目」となる。そして松五郎は盗賊家業へと身を落とす。「金がすべて」と悪事に身を染める現代の小悪党にも通じるメンタリティーだろう。

 講談は古典芸能だが、話の中で描くのは人間。人情や欲など昔から変わらない普遍のテーマがある。

 話を整理し、観客の歓心をそらすことなく、時にウンチクを加えながらの丁寧に、熱く語る。心に残る高座だった。

 そしてお目当ては宝井琴鶴の「番長皿屋敷」。照明に工夫をこらし、怪談噺を好演。一度、ある会の打ち上げでご一緒したことがある。農業系の本を出す出版社に勤務されたあと講談師になったのだとか。表情豊かでありながら、理知的な話をされる方だとお見受けした。

 トリは宝井琴凌(きんりょう)。4月に真打ちに昇進し、四代目琴凌を襲名した。高座にかけたのは「天保水滸伝」から「笹川の花会」。博徒、笹川繁蔵と飯岡助五郎の抗争を描いた連続ものの一大スペクタルだ。

 作者は初代の琴凌。物語の舞台となった千葉県飯岡、銚子を旅して実際にあった出来事をもとに物語を作った。

 「話を聞かせて欲しい、と飯岡を訪れた琴凌に、地元の人は追い返すような扱いをした。一方、繁蔵がいた銚子の人は、歓待し酒飯をふるまい路銀まで与えた。なので物語では助五郎が悪者になった」とは四代目だ。

 公演のあとは少し賢くなった気がする。機会があれば是非。

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