イ・ボミはいつも誰かのために頑張っていた 今季限りで日本ツアー引退、有終の美を

2023年02月27日 17:00

相撲

イ・ボミはいつも誰かのために頑張っていた 今季限りで日本ツアー引退、有終の美を
22年のマスターズGCレディースでコースのテラスでポーズをとるイ・ボミ Photo By スポニチ
 【福永稔彦のアンプレアブル】女子ゴルフのイ・ボミ(34=韓国)が今季限りでの日本ツアー引退を表明した。11年から日本ツアーに参戦したイ・ボミは正確なショットを武器に15、16年と2年連続賞金女王に輝き一時代を築いた。そして愛らしい笑顔から「スマイルキャンディ」の愛称で呼ばれるなど人気面でもツアーをけん引した。
 華やかなイメージがあるが、近くで取材していると、その人間味に魅了される。情に厚く、義理堅い。感謝の気持ちを忘れない。振り返ってみると、イ・ボミはいつも自分ではない、誰かのために頑張っていた気がする。

 14年9月に父・ソクジュさんが亡くなった。その年、賞金ランク1位を走りながら終盤に失速して賞金女王を逃すと、翌15年は「お父さんのために」と誓いを立てて、年間7勝を挙げる圧倒的な強さで初の女王の座を勝ち取った。

 異国での戦いを支えた母・ファジャさんへの感謝の言葉も何度も聞いた。ファジャさんはいつも様々な具材の入ったおにぎりを愛娘に持たせた。娘はラウンド後の取材でおにぎりの具を明かすのがお決まりだった。16年アースモンダミンカップの優勝インタビューでは「早起きして、おにぎりをつくってくれて感謝しています。カムサハムニダ(韓国語でありがとう)」と言って涙をこぼした。

 15年11月の伊藤園レディース。高校時代から指導を受けた趙範洙(チョ・ボムス)コーチを韓国から呼び寄せた。そして初めて恩師の前で優勝し、初の賞金女王を確定させた。「範洙コーチに恩返ししたい」という願いが叶ったのだと勝手に思っていた。

 キャディー、トレーナー、マネジャー、そしてファン、報道陣に対しても、いつも感謝していた。おごりなどは微塵も感じたことがなかった。

 2年連続賞金女王を獲得後はモチベーションが低下。ショットが不振に陥り、スイングに悩んだ。賞金ランクは下降し、20~21年シーズンを最後にシードを失った。

 かつて予選ラウンドでは賞金ランク上位者や人気選手と一緒の注目組で回り、決勝ラウンドは成績上位の遅いスタートが指定席だった。しかし、近年は予選ラウンドでも朝早い時間にスタートすることが多かった。

 ギャラリーもまばらなティーイングエリアで1Wを振る姿を、全盛期を知るベテラン記者数人が見守るのがいつもの風景だった。私も少し寂しさを感じてはいたが、それでもイ・ボミは変わらぬ笑顔を見せてくれる。だからスコア、成績にかかわらずスタート時間に駆けつけるのだ。

 3月2日開幕のダイキン・オーキッド・レディース(沖縄)を皮切りに、日本での最後のシーズンに挑むイ・ボミは「本当にたくさんの愛を下さって、とても幸せでした。今シーズンも幸せに日本ツアー選手生活に集中して最善を尽くす姿をお見せします」とのコメントを発表した。

 メジャー2勝を含むツアー21勝を挙げ、生涯獲得賞金は歴代10位。偉業を成し遂げてきたイ・ボミがやり残したことがあるとすれば「どうしても勝ちたい」と話していたホステス大会「NOBUTA GROUPマスターズGCレディース」初制覇ではないか。

 過去2、3、4位が1度ずつ。何度も優勝争いに加わりながら勝てていない。活動を支え続けたスポンサーに恩返ししたいという思いは年々強くなっていた。引退試合に設定した、その大会で有終の美を飾ってほしい。

 ただ、その一方で「誰かのために」という重荷を肩から下ろして、自分のために頑張ってほしいとも思う。そして日本ツアーを心から楽しんでほしい。マスターズGCの18番グリーンで日本ツアー最後のパットを沈めた瞬間、あの笑顔を見せてくれることを望んでいる。(スポーツ部専門委員)

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