【内田雅也の追球】「間」を支配した12回裏 焦らず、慌てず、岩崎優は踏ん張った 

2023年07月03日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「間」を支配した12回裏 焦らず、慌てず、岩崎優は踏ん張った 
<巨・神>延長12回、けん制の構えを見せる岩崎(打者・ウォーカー)(撮影・岸 良祐) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神2ー2巨人 ( 2023年7月2日    東京D )】 規定で最終回の延長12回、阪神は無得点に終わり勝ちがなくなった。その裏に登板する投手には相当な重圧がかかる。相手は「負けはない」と勇み、勢いがある。そんな断崖絶壁で重圧と逆風を受け止め、岩崎優は踏ん張った。さすがと思わせる投球術だった。
 慎重に慎重に、そして冷静に冷静に無失点でしのいだ。打者との駆け引き、いわゆる間(ま)を支配していた。
 先頭。一発のある先頭の岡本和真には低く低く投げ、四球となったのはやむをえない。慎重が過ぎても仕方ないだろう。

 送りバントで1死二塁。一打サヨナラ負けの窮地で真骨頂を発揮した。

 一塁が空いている。迎えた長野久義は四球で塁を埋めた。ストライクの2球目や4、5球目は手もとの計測でインターバルが23・0秒~24・5秒もあった。

 大リーグが採用している「ピッチクロック」の規則では走者ありの時、ボールを受け取ってから投球始動まで「20秒以内」でないと違反で、ボールが宣告される。試合時間短縮のため、いわゆる間合いを制限している。

 日本のプロ野球では時間制限はない。「ピンチでは時間、球数を使え」という野村克也の理論のように。焦らず、慌てず、十分に時間を使った。

 1死一、二塁で迎えた代打アダム・ウォーカーには3ボールから1つストライクの後、二塁への逆回りけん制の偽投を入れた。けん制前に16・0秒、けん制後に7・2秒で計23・2秒の間合いでファウル。フルカウントとなり、早めの11・6秒で空振り三振に切った。

 2死一、二塁。代打・中田翔には3・6秒でストライク、22・4秒でボール、24・4秒で二塁けん制偽投、16・0秒で空振りと追い込んだ。

 25・9秒でボール、23・1秒で再び二塁けん制偽投、12・5秒で空振り三振に切り、無得点でしのいだのだ。

 岩崎が投げた22球中、20秒以上かかったのは7球もあった。打者を焦らし、けん制偽投3度で打ち気をそいだ。

 「詩人は野球の投手のごとし」と米国の詩人、ロバート・フロストの詩にある。「詩人も投手も、それぞれの間(ま)を持つ。この間こそが手ごわい相手なのだ」

 原文では先の間は「モーメント」、後の間は「インターバル」。瞬間と間合い、双方の間を支配していた。=敬称略=(編集委員)

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