男子バスケの米国代表に試練 五輪初戦で敗れ“王者”が“挑戦者”に!
2021年07月26日 10:19
五輪
宿泊場所は高級ホテルでしかも多くのフロアを全部借り切っていた状態。専用機が到着する空港はそのスタッフも知らなかったが、とりあえず多くの観光客が通過するバルセロナ近郊の国際空港ではなさそうだ…というところまではわかった(実際に到着したのは別の空港)。
マイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソン、ラリー・バード、パトリック・ユーイング…。NBAのオールスターゲームに出る面々が同じユニフォームを着て試合をするということは1980年代まで誰も想像すらしていなかった。それがバスケと五輪への注目度を上げようとプロ選手の出場が解禁となり、全世界が「彼らが五輪で試合をするとどうなる?」という興味を抱いて彼らのプレーを見守っていた。
圧倒的な力の差を示して金メダルを獲得するまでの8試合。相手との得失点差はプラス320点。1試合平均では実に40点差をつけていた。
2021年7月25日。あの“ドリーム旋風”が吹き荒れてから29年。男子バスケの米国は全員NBA選手で編成されてはいるが、フランスに76―83で敗れた。前半で8点をリードし、第4Qの途中でもまだ7点をリードする場面があったが土壇場で競り負けた。
すでに欧州やアフリカ、アジア勢にもNBA選手が代表の中心選手となっている時代。米国だけにNBAのアドバンテージがあるわけではない。新型コロナウイルスの感染拡大によるシーズン全体の日程変更でプレーオフの開催時期が従来よりも1カ月先送りされたために、五輪との間隔の短さから米国では最終候補に挙げられた中から多くの実力者たちが代表入りを辞退。そこに強化試合で2試合先発していたウィザーズのブラドリー・ビール(28)の感染防止規定(プロトコル)による離脱というハプニングも加わった。
バックスのドリュー・ホリデー(31)とクリス・ミドルトン(29)、サンズのデビン・ブッカー(24)の3人は今季の王者を決める「ファイナル」に進出したために、代表に合流したのはフランス戦の直前。世界のバスケ界では比類なき強行日程をしのいで五輪参戦に踏み切った勇気には敬意を表するが、今季のNBAで3点シュートの成功率が41・4%だったミドルトンがフランス戦でリングに当たらないエアボールを正面からのショットで見せているあたりに、ファイナルとは違う状態であることが見え隠れしていたように思う。
NBAの試合時間は1クオーター12分の計48分だが、国際ルールでは1クオーター10分の40分。退場となる反則数もNBAが6回に対し国際ルールは5回。さらに公式球も違う。ただこれはNBA選手が主力となっているフランスとて条件は同じで、“環境の差”はいまさら言い訳にはならないし、そこを理解していないとは思えない。
それなのに得点源であるはずのケビン・デュラント(32=ネッツ)は第3Qの3分すぎに4反則目を犯してベンチに下げられた。フランスが盛り返したのはそこから。後手に回ったときにチームを支える“クラッチ・プレーヤー”がいるのは米国ではなくむしろフランスの方で、セルティクスに所属するエバン・フォーニエー(28)が28得点をたたき出して土壇場で米国を振り切った。
NBAではディフェンスの際、手が届く範囲に相手がいないままに制限区域(ペイント内)に3秒立ったままでいると守備側にテクニカル・ファウルをコールされる。しかし国際ルールでは自由。米国の選手たちは何度も個人技による1対1からの突破でインサイドを突こうとしていたが、NBAならそこにあるはずのスペースがなかった。相手をマークしていなくてもゾーン気味にペイント内にいられるので、フランスがあらかじめそれを想定して米国の進路をふさいでいたようにも見えた。
その結果、リング下のディープな位置からアウトサイドへ“キックアウト”するのではなく、ペイント内の中途半端な場所からボールをアウトサイドに戻すためにフランスのディフェンスは収縮されず、米国側が3点シュートを打とうとしてもシュート地点に間に合う合うポジショニングを維持していた。
3点シュートの成功率が今季のNBAで40%を超えている選手が3人(最高はデュラントの45・0%)いるのに、フランス戦でのチームの成功率は31・3%(32本中10本)。米国は何度もアウトサイドでパスを回してシュート機会をうかがっていたが、そこには「オレは自信がないからお前が打ってくれ」という声にならない悲痛な叫びが飛び交っていたようにも感じられた。
年俸総額もNBAでの実績も十二分な米国代表。しかし五輪に必要な「ゲーム・マネジメント」は整っているとは言い難い。予選の残り試合の相手はイランとチェコ。AP通信は「結局のところ決勝トーナメントには出るだろう」と述べているが、そんなに簡単に事は運ばないだろう。少なくともカナダでの最終予選で、主力がほぼ全員NBAの主力選手で固められたホスト国のカナダを準決勝で打ち破って五輪切符を獲得したチェコはあなどれない。2019年のW杯中国大会で米国は88―67で勝っているが、すでに立場と状況は一変している。
2006年、日本で開催された世界選手権(現W杯)で米国は3位。札幌での予選リーグは5戦全勝だったが、東京五輪の舞台となっている「さいたまスーパーアリーナ」での準決勝ではギリシャに95―101で敗れた。その因縁の場所で悪夢を振り払えるのか?得失点差がプラス40点ではなくマイナス7点で始まった東京五輪。「USA」と記されたユニフォームを着る12人にとっては正念場である。
バスケットボールが五輪で初めて採用されたのは1936年のベルリン大会。以後、米国は18大会に出場して金メダルを15個獲得しているが、初戦で敗れたのは2004年アテネ大会(プエルトリコに73―92)以来、これが2度目となった。
スパーズをファイナル制覇に5回導いている米国代表のグレグ・ポポビッチ監督(72)がこのまま引き下がるとは思えない。当初から「難しい道のりであることはわかっている」と語っていただけにまだ“想定内”だろう。
五輪での連勝は25でストップ。さてどうやって巻き返していくのか?バスケットボールが米マサチューセッツ州スプリングフィールドのYMCA体育館で産声をあげてから131年目。競技発祥国の米国は“王者”ではなく“挑戦者”という立場で東京五輪を戦うことになった。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。
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