元ラグビー日本代表・大八木氏スペシャル対談土田会長編 第3回 リーグワンがより発展するための課題
2023年09月07日 06:00
ラグビー
大八木 子どもたちが将来的に目指すリーグワンについて教えてください。15年に南アフリカに勝って凄く人気が高まりました。五郎丸選手のポーズを子どもたちがマネしたりして、19年にはベスト8に初めて進出しました。日本代表はリーチや稲垣らにファンが多くついて試合観戦に行くけれど、リーグワンの観客数はどうなのか。言い方が悪いけどリーグワンは、完全はプロ機構ではないので中途半端なプロ化だと思います。
土田 ここから全員がプロになるということはないですね。ジェイミー・ジョセフもエディー・ジョーンズも話しているのは、この日本のスタイルがいいのではないかと。
フランスは大丈夫ですが、イギリスはクラブチームが破綻しています。プロでは食べていけない状態です。そういう意味では日本のチームは企業の中にあり、どのチームも会社、オーナーが応援しながら、社員選手もいながら、プロも混ざり合っていくスタイルがいいのかなと思っています。サッカーみたいに全部プロになるよりはね。
今まではチケットを無料配布して、観客が1万人入っても3000人が無料チケットで入場するというケースがありました。これをなくして入場券料をしっかり確保します。
トップリーグでは総入場者が40万人くらいだったのがリーグワンでは(ディビジョン1~3までの168試合で)74万5000人(74万5311人)が入りました。(ディビジョン1はリーグ戦96試合で55万1417人 1試合平均5744人)。今後、リーグワンは1試合あたり最低1万人の入場者を目指したい。これが目標です。
今まではチケットを売っても売らなくても企業には収入がなかった。今は、入場料はすべて企業に入ってくるようになりました。リーグワンで利益が出たものは協会でプールするのではなく、全部を各チームに戻そうとしています。放映権も含めて。稼げるように取り組んでチームに利益を戻していきます。
例えばリーグワンの企業は強化費に20億円くらいかかっていると思います。それが今までは全部企業の持ち出しだったので、5億でも返せるようにして、強化費負担を下げられるようにリーグワンのチームと一緒に考えてやっていきたいです。
でも課題としては、日本代表は観客が集まりますが、リーグワンはまだまだ少ないですね。
大学ラグビーも上手くやれば観客は入ります。大学ラグビーも大事です。トンガ、フィジー、サモアから日本にたくさん留学生が来ています。それは金銭ではないんですね。お金だったら、ニュージーランドやフランスに行きますが、やっぱり治安の良さと、日本の大学に入ると世界的優良企業に入れるから、選手の親たちは日本に留学させるんです。治安もいい、結婚してファミリーを築くという成功例がたくさんあるので、改革の中では大学ラグビーの位置づけもすごく大事になってきます。
大八木 僕たちが現役の時に課題だったアマチュアリズム。その当時、世界のラグビー選手から、“お前たちはプロ”と言われました。なぜかというと、同じ会社にいて、同じチームでプレーしているのだからプロと指摘されたことを覚えています。
そこから徐々に世界のラグビーとともに日本もプロ化に発展してきました。ジェイミー・ジョセフ監督、エディー・ジョーンズ前監督、世界のラグビー界からは日本のシステムについて“こんなうまいやり方はないやん”というふうに評価は高いですよね。
土田 世界のサッカーではオイルマネーによる莫大な投資によって強化が図られているクラブもあります。日本ではトヨタ自動車、キヤノン、サントリーなど企業のトップの方たちがラグビーの価値観を理解してくれています。
大八木 エディー・ジョーンズ前監督、ジェイミー・ジョセフ監督も実際に日本のラグビーに対する環境がいいから受諾した。日本のいい部分が世界にも伝わっているのでしょうね。だからオールブラックスや南アフリカ代表の選手たちが日本でプレーすることを選択して来日するということにつながっているのでしょうね。
土田 日本で開催した19年のワールドカップで、海外の選手たちが日本に40日以上滞在して、治安の良さと日本のレベルの高さを理解してくれました。
トップリーグの頃はレベルも低かったのですが、リーグワンになって世界のクラブと比べてもプレーの質が落ちないと評価されています。現役の日本代表には南アフリカ、オーストラリア出身者もいます。
フランス代表主将のスクラムハーフ、アントワーヌ・デュポンは日本に来たいと言っています。今回のフランスワールドカップで結果を出して、来年のパリ五輪の7人制で優勝して、次の年(25年)に日本でプレーしたいと公表しています。それくらい19年のワールドカップで日本の良さを世界の選手たちが知ってくれました。
大八木 では、会長としてはリーグワンとしてはすぐにプロ機構にするよりは、日本ラグビーのためには今のシステムの状態が続いてもいいという考えなのですね。
土田 川淵(三郎)さんとは30年以上、お付き合いさせていただいているのですが、川淵さんはまったく逆で“絶対にプロ化にしろ”と言われます。中途半端だとね。サッカー、バスケットボールのたどってきた道の失敗も結構あると思うので、ラグビーはどこがその分岐点となるのか、しっかり見極めないといけません。世界のラグビーのこともありますし。
バスケットボールはメンバーが5人で、チームにしても18人くらいです。スタッフ入れても30~40人です。ラグビーは選手だけで50人を抱えて、スタッフを入れたら70~80人。それだけの費用が必要です。
大八木 確かに経費がかかりますね。コカ・コーラ、サニックスが廃部になったくらいですからね。
土田 母体となる企業に負担がかかりますからね。強化しようとすると15億から20億円が必要になります。それを全部、親会社が出していますからね。試合もバスケットボール(Bリーグ)は1チーム年間60試合できるのですが、ラグビーはやれても1チーム20試合(昨年度のディビジョン1はレギュラーシーズン16試合、プレーオフ2試合)くらい。アメリカンフットボール(NFL レギュラーシーズン17試合、プレシーズン3試合)みたいに1試合あたりの付加価値を上げるしかない。
プロ野球みたいに年間140試合以上あってホームで70試合あったら、いくらでも稼げるのですが、そういう難しさがあります。
大八木 サッカーはザ・フットボール・アソシエーション(イングランドサッカー協会)といって、最初からプロでしたからね。バスケットも当然、アメリカですからね。ラグビーは頑なにアマチュアリズムを遵守してきた。
土田 ラグビー界が本当にプロ化を認めたのは95年10月ですね。アマチュア規定を撤廃し、オープン化に踏み切りました。
大八木 第3回ワールドカップで南アフリカが優勝してからですね。
土田 平尾(監督)と私(フォワードコーチ)が日本代表を担当していた99年(第4回ワールドカップ)の時だって、コーチ陣はまだプロじゃなかったですからね。その頃にエディー・ジョーンズも来日しました。年収200万から300万円くらいの報酬でした。選手が先に95年くらいからプロ化に変わっていきましたね。監督、コーチは99年くらいからプロ化に変わっていきました。まだまだプロの歴史は浅いですよ。
◇土田 雅人(つちだ・まさと)1962年(昭37)10月21日生まれ、秋田県秋田市出身の60歳。秋田工からラグビーを始め、同志社大―サントリー。同志社大時代は大学選手権3連覇に貢献、サントリー監督として日本選手権優勝。97年から99年まで日本代表フォワードコーチ。22年から日本ラグビーフットボール協会会長。現役時代のポジションはナンバー8。日本代表キャップ1。
◇大八木 淳史(おおやぎ・あつし)1961年(昭36)8月15日、京都市生まれの62歳。伏見工からラグビーを始め、同志社大―神戸製鋼。同志社大時代は大学選手権3連覇、神戸製鋼時代は日本選手権7連覇に貢献。現役時代のポジションはロック。日本代表キャップ30。
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