【内田雅也の追球】大声援を呼んだ阪神・岡田監督の采配 日米の名将もかつて意識したもの

2023年11月02日 08:00

野球

【内田雅也の追球】大声援を呼んだ阪神・岡田監督の采配 日米の名将もかつて意識したもの
日本シリーズ<神・オ>8回途中、リリ-フカーからジャンプしてマウンドに向かう湯浅(撮影・奥 調) Photo By スポニチ
 【SMBC日本シリーズ2023第4戦   阪神4―3オリックス ( 2023年11月1日    甲子園 )】 野球で試合の流れを変える要素はいくつかある。ミスは相手に流れを渡す。阪神は3―1とリードした7回表、先頭打者の三ゴロをはじいた佐藤輝明の失策から追いつかれた。反対に好守備は流れを引き寄せ、走塁の巧拙も流れに関わる。
 もう一つ、重要な要素がある。ファンである。スタンドの声援や空気が試合に影響を及ぼす。阪神はこれまでも熱狂的なファンの声援に支えられ、勝利を手にしてきた。

 3―3同点の9回裏、1死一塁。打席に中野拓夢を迎えた時点で深夜10時となり、規定で鳴り物入りの応援は止んだ。声だけに切り替わったが、その音量がものすごかった。まさに大声援。記者席で震えていた。

 マウンドのジェイコブ・ワゲスパックは明らかに平常心ではなかった。連続暴投で1死三塁を得た。連続の申告敬遠、満塁策で大山悠輔。大歓声のなか3連続ボール。見逃し、ファウル、ファウルの後、三遊間をゴロで抜き、サヨナラ勝ちをおさめたのだ。今シリーズ打撃不振だった大山を大声援が後押ししていた。

 ただ、大山は懸命にできることをしていた。5回裏1死一、三塁ではどん詰まりで遊撃左にゴロを打ち、いつもの力走で併殺崩れの1点をもぎ取った。6回表の3―6―3併殺も見事だった。

 「できることを普通に」は監督・岡田彰布が繰り返してきた信条だ。サヨナラのシーン。前進守備の左翼手が封殺を狙い本塁送球していたが、三塁走者・近本光司も全力で走っていた。

 大声援が後押ししたサヨナラ劇だが、その大声援を呼んだのは岡田である。8回表2死一、三塁のピンチ。コーチ陣が他の投手を推薦するなかあえて6月以来の登板となる湯浅京己を起用した。

 「ファンの人の声援でガラッとムードが変わると思った」。岡田は狙っていた。さすがに勝負師だ。西本幸雄やジョー・トーリ、日米の名将から直接聞いた「スタンドを意識した采配」である。

 狙い通り、湯浅のコールに割れんばかりの大歓声が響いた。異様な空気のなか、湯浅は1球で中川圭太を二飛に切り、また大歓声に包まれた。勝負の分岐点だった。

 阪神は1回表を除き毎回走者(うち6度は回の先頭)を許すなか、必死の防戦だった。けん制偽投が6球もあった。相手を探り、時間を使い、懸命にしのいだ。最後まで流れを渡さなかったのである。 =敬称略=(編集委員)

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