【内田雅也の追球】満塁での「両刃の剣」

2024年04月14日 08:00

野球

【内田雅也の追球】満塁での「両刃の剣」
<中・神>6回無死満塁、代打・中島は岡留(左)から押し出しの死球を受ける(撮影・須田 麻祐子) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神2-5中日 ( 2024年4月13日    バンテリンD )】 6回裏、四球に3連打と大竹耕太郎が突如崩れて、2―1と1点差に迫られた。なお無死満塁のピンチである。
 中日が動いて代打・中島宏之。阪神ベンチも動いたとき、救援投手は岡留英貴だと直感した。この窮地を託せるのは右横手からの速球にツーシーム(シュート)が切れる岡留しかいない。欲張った思いだが、1点もやらず、リードを保ってベンチに帰る姿まで思い浮かべた。それほどの切り札とみていた。

 ただ、「死球が怖い」とも直感した。右打者内角へのツーシームは死球・押し出しの懸念がある。記者席で実際そんな話をしていた。

 よく「無死満塁は点が入らない」というのは俗説である。統計上、得点確率は8割を超え、得点期待値も2点以上ある。

 ただ、無死満塁無得点(無失点)は印象的で頭に残る。たとえば、あの「江夏の21球」がある。1979(昭和54)年、広島―近鉄の日本シリーズ第7戦(大阪球場)。広島・江夏豊は1点差の9回裏無死満塁をしのぎ日本一となった。空振り三振、スクイズ失敗(空振り)、空振り三振でしのいだのだった。

 敗れた側の近鉄監督・西本幸雄から後年「無死満塁」についての話を聞いたことがある。「無死満塁でポイントになるのは最初の打者や」と言った。「最初の打者で点が入れば大量点も望める。しかし、最初の打者が凡退すると後ろの打者の重圧がかかってくる」。あの満塁機を逸した西本の話だけに深みがある。

 さて、ポイントとなる中島に対し、スライダー、直球、ツーシームで1ボール―2ストライクと追い込んだ。勝負球の内角ツーシームが外れて2―2。さらに続けたツーシームが中島の左手に当たり、痛恨の押し出し死球となったのだった。

 同点となり、さらに適時打、押し出し四球と大竹が残したインヘリテッドランナーを3人とも還してしまった。西本の言う通り、最初の打者が勝負の分かれ目だった。

 プロ3年目の成長株、岡留にとって公式戦12試合目、打者41人目で初めて経験する満塁での投球だった。追い込む1球と勝負球の2球、3球続けたツーシームは死球という危険と隣り合わせの両刃(もろは)の剣だったと言えるだろう。

 むろん、敗戦の責任を24歳に負わせる気など毛頭ない。厳しい世界を垣間見たツーシーム勝負だった。 =敬称略= (編集委員)

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