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フランス代表デシャン監督の周りに台風の渦巻(前編)

2023年01月24日 19:00

サッカー

フランス代表デシャン監督の周りに台風の渦巻(前編)
続投が発表されたフランス代表ディディエ・デシャン監督 Photo By AP
 ~~DD(ディディエ・デシャン)対ZZ(ジネディーヌ・ジダン)?いったい何が?~~(結城麻里=パリ通信員)
 「デシャンに重大な糾弾」
 「デシャンがイブラヒモビッチにズラタネされた!」
 「デシャン、近く雷鳴轟く?」
 「デシャン、離婚をコンファーム」――

 フランスではいま、パソコンや携帯を開くたび、こうした仰々しいタイトルが目を襲ってくる。「どうせコケオドシ」と思いつつもつい気になって読んでしまい、「へ、これだけ?」「やっぱり開かなければよかった」と大失望、うんざりして閉じる毎日である。

 ちなみに「重大糾弾」は、「PK戦の練習をした方がいい」というGKコーチ経験者の意見を針小棒大に「糾弾」に祭り上げたもの。次の「イブラ」は、ユベントスが制裁でセリエBに降格した際、デシャン監督が自分の首をかけてクラブにイブラヒモビッチ慰留を懇願したが、ズラタンに拒否されてしまった、というだけの大昔のエピソードだった。

 「雷鳴」はと言えば、ユーゴ・ロリス、ステーブ・マンダンダの両雄が代表引退を発表したため、3月の代表戦でGK選びが難しくなり、批判が出るだろうという予想。そして「離婚」は、1998年世界王者たちの新年恒例ディナーに、デシャンが別の用事で出席できないことが確認された、というだけの話だった。

 2022年末のワールドカップ・カタール大会で誰も信じなかった奇跡のファイナルを実現したにもかかわらず、ディディエ・デシャン代表監督の周辺にはいま、猛烈な台風の渦巻が形成され、止まらなくなっているのだ。

 ディディエ・デシャン監督がレ・ブルーの指揮棒を取ったのは2012年。リベリが離脱するなかポール・ポグバらを連れて戦った2014年W杯はベスト8に終わったが、2年後のEURO2016ではもう少しで優勝と思わせるファイナリストに輝き、さらに2年後の2018年W杯ではついに世界王者に君臨した。

 ベンゼマを土壇場で復帰させたEURO2020(2021年開催)は準備不足で早期敗退したが、直後の2021年ネーションズリーグは堂々優勝、そして2022年W杯では、数えきれないほどのケガ人続出で本来のチームが消えたにもかかわらず、若者たちを招集して大進撃。アルゼンチンと神話的試合を演じて、奇跡のファイナリストとなった。

 選手としても監督としてもW杯を制したのは、マリオ・ザガロ、フランツ・ベッケンバウアー、ディディエ・デシャンのみになっている。それなのになぜ?


 ~~駄目上司の二言が全てを台無しに~~

 ひどい上司が優秀な部下を最悪の困難に陥れてしまう――。こうした不当は低レベルの企業や組織でときに起きるが、「純粋スポーツ面でも財政面でも絶好調の連盟で?いくらなんでも」と首をひねりたくなる。だが今回の事件はまさにそれ。デシャンは上司がつくった台風の目に投げ込まれてしまったのである。

 デシャン監督がフランスフットボール連盟(FFF)総会で、拍手を受けながら続投決定の報告をしたのが今年1月7日。事件は直後の8日に起きた。ノエル・ルグラエット連盟会長(81歳)が「RMC」の番組で、元女子テニス選手マリオン・バルトリから「ジダンにブラジル代表監督就任の話がきているが?」と問われ、こう苛立ったのだ。

 「(ジダンは)好きにすればいいさ。私が首を突っ込む問題じゃない。彼には一度も会わなかったし、ディディエ・デシャンと別れることなど一度も検討しなかった。どうでもいいんだよ。彼はどこでも好きなところへ行けばいいし、クラブならヨーロッパのどこにだって行けるさ。それもビッグクラブだ」

 次いで「デシャンの契約延長がなかったらジダンが代表監督に就任した可能性がある?」と聞かれると、こう言い捨てた。

 「電話をとることもなかっただろうな。だって彼に何を言うってんだい?『ボンジュール、ムッシュー、心配しないで別のクラブをお探しなさい。ディディエと合意したばかりなので』ってか?」

 表現の仕方を脇に置いて内容だけを吟味すると、ルグラエット会長の言いたいことは理に適ってもいる。「ジダンには自由に去就を決める権利がある、現時点では自分が会長としてデシャン続投を決め、連盟としても公式発表したばかり、他には何も言いようがない」と言いたかったのだろう。

 ただトーンや言い回しはあまりにも異様だった。なにしろ話題は国民に愛され続けているジネディーヌ・ジダン。そして自分はFFF会長なのである。したがって風雲児キリアン・エムバペが、真っ先に鋭い矢を射た。「ジダンはフランス。レジェンドに対しこんな風にリスペクトを欠くべきじゃない」

 過去のルグラエットは何度もFFFを救った功績をもち、政治家(ギャンガン市長=社会党)としての手腕にも定評があった。だがここ数年は、老齢、病、内紛などに毒され、態度の逸脱や舌禍が絶えなくなっていた。長く王座にいるうち現実から乖離してしまった感が否めない。

 しかも内紛に絡んでスポーツ相(女性)による調査(セクシャルハラスメントおよびモラルハラスメント疑惑)も開始され、1月末にはその結果が出る予定だ。このためルグラエット会長は9日、非難轟々の中でジダンに謝罪、「一時的に」身を引いてフィリップ・ディアロ副会長を代理に立て、調査結果を待つ決断を強いられた。

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