【コラム】海外通信員
日本の高校生が文武両道のイギリス遠征で得るものとは?
2019年04月04日 16:00
サッカー
愛知県や岡山県の進学校の高校サッカー部を中心に集まったメンバーのサッカーのレベルは全国強豪校のそれには遠く及ばないだろうが、学力に関しては国立大学や医学部受験を念頭に置く選手たちが多く揃っていた。 初日は英国オリンピック代表マラソンランナーの山内マーラさんの講義にはじまった。オックスフォード大学を卒業、外務省として勤務されながらプロ選手への転向し、北京、ロンドン五輪に出場されたマーラさんはまさしく文武両道を体現している。自身の経験をもとに、流暢な日本語で話をしてくれた。
「わたくしたちプロアスリートのことを一般の方々は完璧な人だと思っているかもしれませんが、そんなことはありません。完璧な人間ではなく、信じられないような失敗をしています。私も多くの失敗をしてきましたが、レースの準備の仕方、レース内でのペース配分など失敗は誰にでもあるんです。それを半年後のレースに生かすことがすごく大切なこと。スポーツに失敗はつきものですよ。また、キャリアで優勝することだけがすべてではないと認識しています。現在、ランニングスクールをしているのですが、そこに67歳の女性がいます。彼女は毎日自分のベストを尽くして成長したいというスタイルでランニングを取り組んでおり、その姿に感銘をうけています。タイムは私の方がもちろん早いけれど、彼女のやり方は私の見本になっています。勉強をしながら、もしくは仕事をしながら競技をしていると時間を管理しなければ、結果はついてきませんでした。時間を管理するスキルは文武両道で学べることのひとつですね。」
翌日からはコッツウォルズ地方にある英国四部クラブのチェルトナムFCを訪問。トップチームのアシスタントコーチを務めるラッセル ミルトン氏はJリーグ発足前の日立でプレー経験もあり、プロクラブへの練習参加を快く許諾してくれた。6面以上の天然芝の練習施設や7000人収容の箱型スタジアムなど、日本の地方クラブではまだまだ揃っていないものが数多くあり歴史の積み重ねがあった。参加していた高校生の一人は次のように感想を述べた。
?「同年代である17歳でプロ契約を結ぶばかりの選手たちがリザーブチームで本気のゲームをしていた。彼らの一人に目標を聞くと、4部の地元チェルトナムのトップチームで活躍することとはっきりと決まっていた。小さな街クラブでも素晴らしい環境でプレーできて、人々の生活に根付いている。また一緒に彼らとプレーするとフィジカルやスピードの違いに驚かされた。サイドチェンジや攻守の切り替えなどの早さも日本にもないものだった。ラッセルさんやその他のスタッフの方々が非常に明るく楽しそうに仕事をしていたのが印象に残っている。」
クラブ訪問の次はイギリスの名門大学を訪れた。ロンドンの中心部大英博物館の北に位置する、ユニバーシティカレッジ・ロンドン(UCL)は世界大学ランキングで毎年10位以内に入る、研究、教育にて世界をリードする名門総合大学である。
歴史的に日本とゆかりのある大学であり、幕末から明治時代にかけて、長州ファイブ(初代総理大臣伊藤博文、初代外務大臣井上馨など)や薩摩ナインティーンといった日本の近代化の礎を築いた多くの偉人たちがUCLに留学した。
UCL眼科学研究所の大沼信一教授とイギリスで活躍する日本人の若手研究者が中心になって、2015年から日本とイギリスの高校生がロンドンに集う「UCL-ジャパン・ユース・チャレンジ」をスタートさせており、これまでにも数百名がイギリスの高校生と交流しながら世界最先端の研究に触れている。UCL内での講義で大沼教授は日本人の内向き志向に対して警鐘を鳴らした。
「日本の大学が低迷している最大の原因は国際性の欠如。優秀な日本人は国内に留まり外にでない、また外国人も日本で仕事や研究をしようと思わない。大学の話ではあるが、ガラパゴス化、内向きの傾向が強い。日本の高校生に話を聞くと、地元に戻って安定した仕事につければ良いとと言っている。金銭的な理由で留学できないという話もよく聞くが、最近は奨学金制度が増えてきている。ぜひとも日本国内に留まるだけではなく、海外でも楽しく仕事をしてほしいと思う。」
研修の終盤にはサウサンプトンのプレミアリーグの試合観戦し、日本代表キャプテンの吉田麻也の勇姿を見ることができた。筆者自身も今回の研修に帯同させてもらいながら、高校生たちの意識の変化を感じ取ることができた。若者の価値観にどれだけの刺激をもたらしたかは測れないだろうが、スポーツ界にとっても優秀な次世代の人材をどのように取り込むかは非常に重要な課題になってくるだろう。
最後に、数年前ロンドンにて岡田武史氏と筆者が直接お会いした時の言葉を思い出した。
「日本国内では、若者が海外に興味がなくなってきていると聞くがサッカー界に限っては本当にそのような状況なのだろうか?と思う時がある。仕事上、アジアやヨーロッパなどの様々な国に出向くことがあるが、どんなに小さな国でもサッカー選手やサッカーを繋がって出会う日本人がいる。選手やコーチで食べている。そういった人たちは挑戦を続けている。我々日本人は勤勉である人が多いのだから、海外で経験を積んだ彼らの知識を統合させるようなことができたらいい。」(ロンドン通信員=竹山友陽)