【コラム】海外通信員
ブラジルサッカー界に黒船来航 ボタフォゴ新オーナーのアメリカ人
2022年06月27日 13:00
サッカー
ブラジル国内でプレーしている中にも良い選手はいる。セレソンに呼ばれる選手もいる。しかし、一般的にブラジル以外の国の人にとって”ブラジルサッカー”というのは、理解しにくいものになっているのが事実だ。
とにかく、いろいろな大会が入り乱れている。州リーグ一つとっても、サンパウロ州なら4部まで合計84チーム。州リーグはシーズン開始の1月から、4か5月まで行われる。
州リーグの優勝、準優勝はCopa do Brasil ブラジルカップへの出場権を得ることはあるが、州リーグは全国リーグの下部ではない。日本の県リーグ、地方リーグ、JFLという位置付けと違うのだ。だから、フラメンゴもパルメイラスも州リーグも戦うし、全国リーグも戦う。鹿島アントラーズがシーズン始めは茨城リーグに参戦し、途中からはJリーグを戦うみたいな感じだ。
州リーグは全州27で行われる。最も古い州リーグはサンパウロ。1902年に始まった。その次はバイア、リオと続く。
ブラジルは国土が広く、開拓された地域の格差が大きいだけあり、全国規模というと数州合同の大会はあったが、本当の意味の全国大会は州選手権に比べて70年近く遅れて始まった歴史がある。今に至るまでレギュレーションも各州で異なり、極めて自治的なリーグだ。伝統的にW杯のようにグループリーグをやって、最後はノックアウトというパターンが多かっただけに、ものすごく盛り上がった。
1971年に始まったCampeonato Brasileiro=ブラジル選手権、通称ブラジレイロンはレギュレーションが頻繁に変わり、混乱のリーグだった。1987年などレギュレーションの混乱により優勝がフラメンゴなのかエスポルチなのか、法廷にまで持ち込まれた。
現在は4部編成で、1部から部まで各20チーム、4部は64チームが参戦する巨大なリーグになっている。
これ以外にも地域的なカップ戦もあるし、南米大陸レベルではチャンピオンズリーグのリベルタドーレス杯、コッパ・スラメリカーナ、レコッパ、スーペルコッパなどなどがある。
今は、U20、U17のブラジレイロンとカップ戦もあるし、女子サッカーが急激に整備されてきた。大会の種類が多く複雑で、レギュレーションの頻繁な変更が、さらに海外の人々に理解しにくいことがブラジルサッカーをマーケティング的にドメスティックにさせている所以でもある。
歴史と伝統が長いだけに良いこともあれば、しがらみが深く、なかなか変化できない面が強い。コンテンツも豊富だし、才能の宝庫であり、やり方次第でビジネスチャンスがもっと増えるに違いないのだが…。
外からの視点、意見が必要な時期に来ているのは事実だ。ピッチの中でいえば、外国人監督が増加した。ここ数年、結果を出しているのがポルトガル人監督。フラメンゴのジョルジ・ジェズス、パルメイラスのアベル・フェレイラはリベルタドーレス杯優勝もしている。現在、10人の外国人監督がブラジレイロンを戦っている。ちなみにパルメイラスのアベル・フェレイラ監督の年俸は約9億円。セレソンのチッチ監督の約5億5千万円より高いと言われている。外国人監督の視点、経験は間違いなくブラジルサッカーに良い影響をもたらしている。
それでも、手がつけられていないのがリーグの改革。そこに意見を申すビジネスマンが登場した。長年経営難だったボタフォゴの新オーナーとなったアメリカ人のジョン・テクストル氏だ。ボタフォゴは2020年に本田圭佑選手が移籍して話題になったが、あの時すでに沈没したような船だったからこそ、ずっと救世主を探していた。そして、ついに経営権をジョンに渡すことでクラブの生き残りをかけることになったのだ。
ジョンはストリーミングサービスを展開する『fuboTV』で成功を収めた人物で、すでにプレミアのクリスタル・パレス、RWDモレンベーク(ベルギー)リヨン(フランス)の経営をしている敏腕ビジネスマン。これから5から7年でブラジルリーグをプレミアリーグのように変えたいと言っている。
ブラジルの中にいると当たり前だったことを、外からの視点と経験や意見を共有することでブラジルサッカーのブランド力を上げ、欧州リーグに負けないマーケットになる期待が膨らんできた。ただ選手を欧州に売るだけでなく、互いにウィンウィンになる未来が待ち遠しい。さて、どうなることか。(大野美夏=サンパウロ通信員)