【コラム】海外通信員
34試合無敗 カタールW杯で優勝するのはアルゼンチン代表!?
2022年09月26日 12:30
サッカー
実はこれが話題になる前、スペイン語圏では同じようにアルゼンチン代表の優勝を予想する動画がSNSで拡散されていた。データをベースとしたクレメン氏の予測とは違い、その動画は「カタールの王室が裏でアレンジした結果」という単なる憶測に基づいたもの。そこでも決勝の相手はイングランド代表となっており、感動の優勝を遂げた直後の会見でリオネル・メッシが代表引退を表明するというシナリオまで付いていた。
こういった予想に対するアルゼンチン人の反応はそれぞれで、ネットで確認したところ「嬉しい予測が実現しますように」と肯定的に受け入れる人もいれば、「優勝候補に挙げられるのは縁起が悪い」と考える人もいる。一般的に「前祝い」が嫌われるアルゼンチンのこと、アンケートを集計すれば後者のケースの方が多いかもしれないが、いずれにせよ現時点でアルゼンチン代表の優勝を予測、予想することは決して的外れではない。
2019年コパ・アメリカ準決勝でブラジルに敗れたのを最後に、リオネル・エスカローニ監督率いるアルゼンチン代表は34試合無敗(※9月26日現在)を維持しており、守備から前線まで各ラインが安定したチームはメンバー同士の結束も強く、キャプテンのメッシが「最高の仲間たち」と賞賛するほどグループ内の雰囲気は良い。基本布陣も戦術も定まらずに迷走し、指導陣と選手の間に深い溝ができた前回のロシア大会の時とは正反対だ。昨年のコパ・アメリカを制覇したチームには、W杯でも優勝できるポテンシャルが十分秘められている。
また、4年前とは大きく異なる点として、アルゼンチン代表としては画期的な活動プランを実践しているところにも注目したい。今までのようにW杯を区切りとして0からスタートするのではなく、継続的に世代交代を進めているのである。
9月23日のホンジュラス戦で、ティアゴ・アルマーダ(21歳)やネウエン・ペレス(22歳)といったユース代表出身の選手に出場の機会が与えられたのはその良い例だろう。負傷者の代わりとして招集される以外の形で彼らがカタール大会のメンバーに選ばれる可能性はほとんどないことから、今回のようにW杯直前に若手を試したのはポスト・カタールを見据えたチーム構築の一環と考えていい。そしてこれは、AFA(アルゼンチンサッカー協会)がロシア大会での反省を大いに活かして練り上げた代表強化の「10年計画」に基づくものなのだ。
AFAのクラウディオ・タピア会長は、ドイツ代表のプランを参考にして作られた10年計画を発表した際、「監督が変わってもアイデンティティは変わらないチーム作りを目指す」と話していた。トップに立つ指導者が交代しても、一つのプランをベースとしながらチーム作りを続けるやり方は、ホセ・ペケルマンがアルゼンチンのユース代表の指揮を担った当時に実践されたもの。一時的な変化、結果に影響されることのない強化プランにより、国際舞台で主役となりうるチームの基盤を築き上げることが目的だ。
W杯でどのような結果になろうとも、強化プランそのものを中断するような事態にならないことを切に願う。もちろん、アルゼンチン代表を応援する者として、クレメン氏の予測が当たってくれることに期待しながら。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)