【コラム】海外通信員
セレソンに対するコパ・アメリカへの期待
2019年04月18日 17:30
サッカー
45回の歴史でウルグアイは44大会に出場し、15回優勝している。次に多いのはアルゼンチンが42回出場の14回優勝。コパ・アメリカにおいてはブラジルの永遠のライバル2カ国が圧倒的優位を誇る。ただ、ブラジルは89年に40年ぶりに自国開催をし優勝をしてからは4回優勝し、その強さを誇ってきた。
とはいえ、3年前の2016年特別大会の百周年記念センテナーリオ大会では、ブラジルはペルーに負けを喫し敗退。これをきっかけに当時のセレソン監督ドゥンガはクビと相成った。
2014年ブラジルW杯の7-1の惨敗、2016年コパ・アメリカの敗退、2018年ロシアW杯でも早々の敗退と、セレソンは立ち直れてないままのようだ。
世界のレベルが上がった一方、ブラジルのレベルは世界の均一化に合わせ、すなわち下がってしまった。たしかに選手たちは欧州の一流クラブで活躍はしている。が、ブラジル代表というチームは卓越した優位性、独自性を徐々に失っているのだ。対戦国にとっても以前ならブラジルとのマッチには試合前から特別な恐怖を感じたものだか、今ではごく普通の試合となってしまった。相手からの課題なリスペクトを受けることはなくなってしまった。
セレソンの看板選手としてチームナンバー1のスター選手は、2013年からずっとネイマール。かれこれ6年、彼を超える選手は出てきていない。ネイマールはいつかバロンドールを取ると期待されながら、一向にその気配は無い。それどころか、ナンバー1の座はどんどん遠のいているようだ。ネイマールが一番輝いていたのは10年前の17歳から21歳までのサントス時代だったのかもしれない。あの頃の彼には世界のトップに上り詰めるためのポテンシャルと何者を恐れぬ果敢さ、同時に謙虚さもあった。
しかし、気がつけば27歳。サッカー選手としてはもうピークを迎えていなければいけないのに、まだその時は来ない。まだ、若いからだと思っていたが、気がつけば20代後半にきた。そのわりには精神的にも、両親の庇護の下にいるままでどこか甘い。もともと、はにかんだような可愛らしさのある子だったが、いつまでもそれではチームのリーダー的存在にはなれやしない。国民的スターの座はかわらない。相変わらずメディアを騒がし、何社もの広告塔であり、人々の注目を集める。しかし、いつしか、人々からの応援を得られなくなってしまった。それはやはり彼に人間的な成長が感じられないと誰もが感じているからだろう。ポップスターではあるが、サッカー界のスーパースターとして人々は見なくなっている。
エスタード・デ・サンパウロ紙に3人のセレソンのレジェンドプレーヤーが今のサッカーを語っていた。
リヴェリーノ、パウロ・ロベルト・ファウカン、エメルソン・レオンの誰もが口を揃えて言うのは、今のブラジルサッカーは昔のようなテクニックを持っていない。独自性を失った。
リヴェリーノは「攻撃こそがブラジルサッカーのDNAなんだ。1点や2点失点しても、取り返すのがブラジルサッカーだった。サッカーは高度なテクニックを持った選手あってのものだったが、今は監督こそが一番重要な存在になってしまった。呼ばれるのは戦術的に良い選手ばかりだ。今はセレソンの90%が欧州でプレーする選手たち。試合が終われば、みんなバラバラのところに戻っていく。そうはいっても、欧州でプレーする選手を呼ばざるを得ない。ブラジル国内でプレーしている選手たちのレベルがそんなに高くないのだから。今は、明らかに他の選手とレベルが違う選手の出現がほとんどない。正確に言えば、ネイマールが最後だ。それも10年前の話だ。」と言う。
元セレソンのGKのレオン監督はこう語る。
「ブラジルサッカーのアイデンティティを失っている。ブラジルサッカーは、美しく、楽しく、強く勝てるサッカーだった。しかし、それらを失った。今は、よその国のサッカーを真似してるが、まともに真似すらできない。以前は他の国がブラジルをお手本としていたのに。今はテレビを見れば、世界中の試合が常に流れて、スポーツショップには欧州クラブのシャツが幅を利かせている。お金の動くところが主流になってしまったんだ。いつからこんな流れになったかは、はっきりと断定はできない。徐々にこうなってしまった。クラブにしてみたら財政的問題が第一で、選手をじっくり育てることも叶わない。今では、12歳の少年が海外向けの商品になるんだ。昔はブラジルでそれなりに活躍してしか海外に行けなかったが、今の選手たちは早くから大金を手にして、名声を得てスーパースターになっていくんだ。これでは選手たちはがむしゃらにならなくなる。」
育成世代にも課題がある。若くしてレアル・マドリッドで活躍するヴィニッシウス・ジュニオールのように才能ある選手もいるが、U17とU20代表は南米予選で敗退して世界大会への出場権を得られなかった。これがブラジルの現実だ。
では、ブラジルでサッカー熱が減っているのかというと、そうではない。サッカーが国民的スポーツであることには変わりない。
サッカーはやるのも見るのも大好きという若者の意見を聞いてみた。
「地元の自分の応援するサントスか、欧州なら大好きなバルセロナの試合に興味がある。でも、セレソンの試合は、W杯以外ではあまり気にしていない。」
それもそのはず。ブラジルにいるブラジル人にとって、セレソンのメンバーは遠い存在で、テストマッチの時に選手が集まるだけで、しかもその試合は国外で行われている。自分のチームの代表という意識もなく、ファン同士の連帯感もない。セレソンのテストマッチを見る理由はないのだ。
「ネイマールは今のままではもう終わったようなものだ。サントス時代は、本当に素晴らしい選手で、もっと輝いて大きなポテンシャルを持っていた。今は、もうピークを過ぎている。サントス時代のようなプレーはもうしていない。」
21歳の若者は極めて冷静にサントスのヒーローだったネイマールを語った。あの頃のネイマールはどこに行ってしまったのだろう。
コパ・アメリカの試合を楽しみにしているか?と訊いてみた。
「W杯なら見るけど、コパ・アメリカは、見るかもしれないし見ないかもしれない。」
実際のところ、コパ・アメリカのブラジルの試合のチケットはほとんど売り切れている。1万円(それ以上)ほどのチケットは決して安くはないが、滅多と見れないセレソンを間近で見たい人たちはたくさんいる。中流以上の人にとって、それほどの痛手の出費にはならない。海外の有名ミュージシャンのライブに行く感覚と同じなのだ。
しかし、30年前を思い出せば、1000円くらいのチケットを握りしめ、ぎゅうぎゅうの立ち見席で我がセレソンを食い入るように見て、熱狂的に応援した人たちがスタジアムには溢れかえっていた。
国が豊かになり、いろいろなことが変わった。人々も、サッカーも、セレソンも。(大野美夏=サンパウロ通信員)