【コラム】海外通信員
【フランスコラム】ドリブラーの宿命とウスの道(後編)
2023年11月10日 08:00
サッカー
嬉しそうだった。そこには、「ドリブルのためにドリブルする選手」の面影はなかった。華やかなドリブルを披露したい一心の選手ではなく、チームのために自分の力を発揮して貢献する選手の笑顔。目もキラキラしていた。
そしてウスことデンベレは、11月7日の『レキップ』紙に登場した。「パリでの最初の数カ月をどうジャッジするか」と問われると、「凡庸」と即答。「まだゴールしていないが、批判を理解できるか」と問われると、「ウィ」と即答した。だがその後にこうも言っている。
「でも僕は、決めたゴールで自分のパフォーマンスをジャッジはしない。ゴールできても試合の中で悪い場合もあれば、ゴールしなくても試合の中で非常にいい場合もある。・・・ゴールしたけど悪い試合だった、なんてことには興味ないんだ」
「なかなかフィニッシュできないが」と突っ込まれると、「僕はその部門でこれから進歩する」と答え、こう分析している。「ゴール前で力が入るとよく言われる。1人か2人をドリブルで抜こうとすると、遠くから迫るせいで(ゴール前での)明晰さが落ちるんだと思う」
そんなウスにルイス・エンリケ監督が指示するのは、ハキミがセンターに飛び込めるようサイドに張りつくこと、できるだけ仕掛けて危険を創り出すこと、そしてアシストすること、だそうである。デンベレも言い切る。「僕の役割はドリブルすること、それでチャンスを創り出すことなんだ。リスクが付き物のプレーだから、全てに成功するとは言えないよ」
「世界一の選手になるポテンシャルがありながらこの状況だと言われても理解できるか」と問われると、今度はこう答えた。「うん、少しわかるよ。でもこういうもんさ。これが人生。いつもトップレベルの選手やバロンドールばかりというわけにはいかないよ。ただ僕も26歳だからね、まだ何年かある。最高の数年になるよう祈っている。もっと進歩するつもりだよ」
どうやら彼は、クラブでも代表でも最もポジティブなドリブラーの道を選ぼうとしているようだ。ドリブル力を活かしながらも、ゴールだけにこだわるソリストではなく、チームに貢献できる存在になる――。そんな第3の道だ。
11月7日のチャンピオンズリーグ・ミラン戦(2-1)でも、前半のデンベレは果敢に仕掛け、コロ・ムアニにもエムバペにも絶好パスを出してチャンスメイク、自身でも決めそうになり(バー)、「デンベレは、不運に終わっているけれども凄い違いを創っている」(元PSG女子選手のロール・ブーロー)と評された。『レキップ』紙の採点もチーム最高(タイ)の「6」だった。だが後半はうまくいかず、27回もボールロスト。パリSGもグループ2位に落ち、早くも忍び寄る敗退の恐怖に対面している。
ウスの道は今後、どうなるのだろうか。第3の道は険しい。ただ、私もやっと、デンベレを見るのが楽しみになってきた。(結城麻里=パリ通信員)