【コラム】海外通信員
ほとんどサイコドラマと化したパリ(下) 4人のファンタスティック
2020年02月28日 18:00
サッカー
立ち上がりからレジリアンスと闘志をみせた例外的存在は、カバーニとマルキーニョス。カバーニはPSG通算200ゴールを達成して感涙し、マルキーニョスはDFながらガッツある2ゴールを入れてリーダーシップを発揮した。
だがネイマールは敵のマークに苛立ち、レッドを食らった。しかも試合終了を待たずに帰宅。「ドルトムント戦後の発言もそうだったが、28歳にもなったビッグタレントなのに、この程度のフラストレーションを抑えられないのが問題」(元セネガル代表アビブ・ベイユ)と指摘された。26日には出場停止1試合の処分も決まり、ただでさえ試合勘が鈍っていたネイマールは、これでまた出場数を減らすことに。CLセカンドレグに向けた調整に支障が出るのは明らかだ。
エムバペも苛立っていた。カバーニがパスせずにシュートして外すと、あからさまに怒って非難したのだ。だが直後にそのカバーニとエムバペの華麗なワンツーが出現し、カバーニのパスからエムバペがゴールする美しいシーンが生まれた。
とはいえ、勝利にもかかわらず不安は拭えなかった。それどころか不安は増すばかりになっている。3月11日のセカンドレグには、ヴェラッティが出場停止(累積)、チアゴ・シウバが脱落(怪我)。どうやってこのサイコドラマを払拭し、どう闘争心を植え直し、どんなシステムと選手チョイスで戦うのか――。監督も壁の下に追いつめられている。
そもそもトゥヘル監督は昨秋、「ネイマール&エムバペ&ディ・マリア&イカルディの4人を同時起用するなどできないのだ」と主張していた。この4人は「カトル・ファンタスティック(4人のファンタスティック)」と呼ばれるようになっていたが、いくら攻撃力が華々しくても守備がおろそかになれば攻守のバランスは崩壊する。
ところがその後チームと話し合った結果、選手たちは「4人同時の4-4-2がいい」と要望。このため監督は「4人が守備努力するなら」という条件をつけた。するとネイマールが「じゃ、守備しようじゃないか」と答えたという。ここからPSGは4-4-2に移行。ネイマールは絶好調になり、問題の2月1日の怪我までは完璧だった。そこでこのシステムをドルトムント戦直前まで続けることになった。
ところがドルトムント戦当日の試合開始3時間前、トゥヘル監督は何と3-4-3で戦うと通告したのである。このニュースはフランス中の通を驚かせた。なにしろ3-4-3など全く準備してこなかったのだ。しかも過去に3-4-3で戦った大きな試合は、ほとんど敗北に終わっていた。ネイマールの試合勘が戻っていないこと、守備が不安だったことから決断したのだろうが、これがかえって監督の自信不足を露呈する結果となり、選手たちに混乱をもたらした。
4-4-2を貫くか、「CLでは通用しない」と選手たちに理解させ、前もって別システムを準備するか、のどちらかしかなかったのだ。または最初から4-4-2など試みない方がよかったのかもしれない。元は4-3-3で回してきたうえ、「PSGだろうがフランス代表だろうが、カトル・ファンタスティック同時起用の4-4-2など無理なのだ!」という専門家も多かったからだ。だがもう手遅れだった。
事実上の会長不在(クラブ外の要職兼任と司法問題)、レオナルドSDの沈黙と思惑、監督の孤立無援、選手と選手家族のフラストレーション、種々の事件や問題発言の噴出・・・。プシコーズになると、真の原因にみなで立ち向かう代わりに、自分だけ災禍や責任を逃れようとするエゴイズムが蔓延してくる。
いまのPSGに必要なのはまさにその逆。「全員で苦しむこと。全員で苦しみながら一緒に試練を乗り越えること。それができたときこそトラウマが過去のものになる」(元フランス代表オリヴィエ・ダクール)。パリはクラブ一丸になれるのだろうか。答えは3月11日夜に出る。(結城麻里=パリ通信員)