【内田雅也の追球】「両刃の剣」の内角勝負 結果は裏目でも今季は成功していた左打者への内角フォーク

2023年06月29日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「両刃の剣」の内角勝負 結果は裏目でも今季は成功していた左打者への内角フォーク
10回、島本が岡林に浴びた決勝打は意外な配球だった(撮影・平嶋 理子) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神2ー4中日 ( 2023年6月28日    甲子園 )】 投手と打者の間には内角という「領土」を巡る争いがある。ともに生活をかけて領土権を主張しあう。
 内角球は怖い。

 打者は当たる恐怖心がある。一方で投げる投手も甘くなれば長打を浴びる危険性がある。さらに当てるのも怖い。アメリカ野球殿堂入りのドン・ドライスデール(ドジャース)は「内角は投手のものだ。ぶつけるのを怖れていては仕事にならない。ここに投げられる投手だけが大リーグで生活できる」と語っている。

 つまり、内角球は両刃(もろは)の剣なのだ。

 阪神は延長10回表、この内角攻めが裏目と出て決勝点を奪われた。島本浩也―坂本誠志郎には悔やんでも悔やみきれない敗戦だったろう。

 この回1死、右の代打・福田永将を0ボール―2ストライクと追い込みながら、内角高め直球をぶつけてしまった。死球で出塁を許した。次に低め変化球を生かそうとする伏線の釣り球だったか。もったいなかった。

 送りバントで2死二塁。迎えた左打者・岡林勇希も2―2と追い込んだ。勝負球は何と、内角低めフォークだった。

 左投手が左打者の内角にフォークを落として勝負するというのは珍しい配球ではないだろうか。通常は真ん中低めや外角低めが定番かと思う。

 聞けば、内角フォークは今季から使っている勝負球で成功していた。NPB統計・分析サイト『TSUBASA』によると、島本の左打者へのフォークは今季これまで16球。うち4球が内角球で無安打に封じていた。

 その勝負球フォークはうまく内角低めに落ちたが、ややコースが甘かったか。岡林にすくわれ、右翼線への決勝三塁打となったのだった。

 島本は育成選手からはい上がった苦労人だ。15年の1軍初登板以来128試合目で初めて敗戦投手となった。苦い黒星の味を知ったわけである。

 内角を攻めた勇気はたたえたい。プロ野球記録の通算165与死球の東尾修(本紙評論家)は「ケンカ投法」と呼ばれた。だが、異名そのままの著書(ベースボール・マガジン社新書)で<体の近いところに投げたら「攻める」、体から遠ざかっていくボールを投げたら「逃げる」と表現するのはおかしい>と書いている。<「攻める」のは気持ち。相手に負けない気迫を持つ>。糧にしたい敗戦である。=敬称略=(編集委員)

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