【内田雅也の追球】相手が転ぶ「普通力」 6点優勢9回2死無走者での小野寺の好守に強さを見た

2023年09月04日 08:00

野球

【内田雅也の追球】相手が転ぶ「普通力」 6点優勢9回2死無走者での小野寺の好守に強さを見た
<ヤ・神>9回、山田の左翼線の打球をスライディングで止めた小野寺(撮影・岸 良祐) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神7-1ヤクルト ( 2023年9月3日    神宮 )】 9回裏2死無走者。山田哲人の左翼線打球に小野寺暖が疾走、滑り込みながらのバックハンドを試み、フェンス前で捕球、単打で止めた。
 大量6点リード。すでに伊藤将司のマダックス(100球未満完封)も消えていた。それでも集中力を切らさない。今の阪神を象徴するプレーだった。続く村上宗隆の二遊間ゴロも中野拓夢の好プレーで幕を下ろした。

 9回表に近本光司が右脇腹に死球を受けた後だった。心配が広がるなかで展開された好守は余計に目にとまった。

 試合前、ヘッドコーチ・平田勝男が「本当になあ」と感心するように話していた。「こちらは普通にやっているだけなんよ。普通にきっちりやっていると、相手が勝手に転んでくれるのよ」

 確かに、そんな試合が続いていた。今回の神宮3連戦も1日は四球、盗塁、悪送球、捕逸……と相次いで得点を重ねた。2日も四球にバントをからめて大量点を奪った。

 この夜も同じだ。ヤクルト先発は今季2勝を献上していた新人右腕、吉村貢司郎だった。ところが相手守備陣が乱れた。

 1回表、先頭・近本光司の右前ライナーの安打を右翼手ドミンゴ・サンタナが無理な突っ込みで後逸して三塁打。中野拓夢はよく選んで四球。シェルドン・ノイジーの三遊間寄り緩いゴロで三塁走者生還、村上宗隆が二塁悪送球して傷口を広げた。佐藤輝明が仕上げに3ランを打ち込んだ。

 2回表は木浪聖也が出て伊藤将が送り、中野、ノイジー連続適時打とたたみかけた。不動の8番が出て投手が送り、上位につなぐ。今季幾度も見られた得点パターンだ。

 四球やバントが静かに重圧をかけていた。

 監督・岡田彰布は「何も特別なことはしていない」と繰り返している。「普通にやればいいんよ。普通に」。選手に難しいことは要求せず、確実性を重んじる。繰り返し徹底してきた。

 <勝っているときはやり方を変えない。これは勝負に勝つ鉄則だ>。それはゲーテも語っていたと教育学者・斎藤孝が著書『座右のゲーテ』(光文社新書)に記していた。<アレンジを加えてもかまわないが、自分の基本の勝ちパターンは動かさないのが重要だ>。

 阪神は「普通」に徹してやってきた。小野寺も「普通にやっただけ」と言うだろう。なるほど「普通力」と言える強みである。=敬称略=
(編集委員)

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