【コラム】戸塚啓
UCL決勝で最も輝いた選手 12年5月19日GKペトル・チェフ(チェルシー)
2019年05月27日 07:00
サッカー
ただ、クラブに初のUCLをもたらした意味で、11-12シーズンからチェルシーのペトル・チェフをピックアップしたい。
チェルシーは07-08シーズンにクラブ初のUCL決勝進出を果たしたが、マンチェスター・UにPK戦で敗れた。チェフはクリスティアーノ・ロナウドのPKを止めたものの、勝利を引き寄せることはできなかった。
それだけに、4シーズンぶり2度目のファイナルへ到達した12年5月19日のファイナルに、チェフは闘争心をたぎらせていた。
ドイツのバイエルン・ミュンヘンとの一戦は、80分以降にめまぐるしく動く。83分、トーマス・ミュラーのヘディングシュートでバイエルンが先行する。88分、ディディエ・ドログバが右CKから強烈なヘッドを炸裂させ、チェルシーが同点に追いつく。
1対1のまま延長戦へ突入した93分、チェルシーはPKを与えてしまう。ここでチェフがチームを救う。アリエン・ロッベンのシュートを読み切り、ゴールを許さない。試合はそのままPK戦へもつれていく。
ここでもチェフは、ピッチを支配する。先攻のバイエルンが3対2でリードした4人目、イビチャ・オリッチの左足シュートを鮮やかにセーブする。5人目のバスティアン・シュバインシュタイガーのシュートも指先に当て、左ポストの助けも受けてストップした。2人目以降の4選手が成功したチェルシーは、PK戦を4対3で制して初優勝を手繰り寄せたのである。
この試合のバイエルンは、120分間で35本ものシュートを放っている。枠内シュートは7本にとどまるが、ゴールマウスをかすめるような一撃は多かった。絶え間ない重圧を浴びながら、チェフはゴールにカギをかけたのだった。
チェルシーはその後もUCLに出場しているが、13-14シーズンのベスト8が最高成績で、ファイナルへ辿り着くことはできていない。チェフ自身も15-16シーズンから所属するアーセナルを含め、上位進出を果たせていない。そして彼は、今シーズン限りでフットボーラーのキャリアに幕を下ろした。
チェルシーがこれからUCLの舞台に立つたびに、クラブの関係者は、サポーターは、11-12シーズンの歩みを思い起こすに違いない。頭部を保護するヘッドギアを着用したGKは、人々の記憶のなかで息づいていくのだろう。(戸塚啓=スポーツライター)