【コラム】戸塚啓
サウジマネー ビッグネームは集うが「熱」はあるのか?
2023年07月12日 19:30
サッカー
しかし、今夏に成立した多くの移籍は、ロナウドとは異なるケースだ。
まずは昨シーズン王者のアル・イティハドが、元フランス代表FWカリム・ベンゼマ、フランス代表MFエンゴロ・カンテ、ポルトガル人FWジョタを獲得した。
ロナウドが在籍する同2位のアル・ナスルには、クロアチア代表MFマルセロ・ブロゾビッチが加入した。コロンビア代表GKダビド・オスピナも、22年7月から在籍している。
同3位のアル・ヒラルには、セネガル代表CBのカリドゥ・クリバリが26年までの3年契約で加入した。ポルトガル代表MFルベン・ネヴエスも、スカッド入りしている。
23-24シーズンから1部に復帰する名門のアル・アハリには、ブラジル代表FWロベルト・フィルミーノ、セネガル代表GKエドゥアール・メンディを獲得した。
今夏にサウジ行きを決めたのは、まだまだヨーロッパの第一線で活躍できる選手ばかりだ。これからキャリアのピークを迎える選手もいる。
ビッグネームを手当たり次第に獲得するサウジ側には、どのような思惑があるのだろうか。
近いところで言えば、今年のクラブW杯だろう。サウジ勢ではアル・ヒラルが21年にベスト4入りし、22年は決勝まで勝ち上がった。
ホスト国となる今年は、アル・イティハドが開催国枠で出場する。アル・ヒラルを上回る成績を目ざして、ベンゼマらを獲得したのだろう。
クラブW杯は25年から規模を拡大する。アジアには4枠が与えられ、アル・ヒラルが浦和レッズとともに出場権を獲得している。来たるべき舞台へ備えて、各チームが競争力を高めていると言うことはできるのだろう。
元イングランド代表MFのスティーブン・ジェラルド、元クロアチア代表DFで同国代表やプレミアリーグのクラブなどを指揮してきたスラベン・ビリッチらが、監督として招かれているのも、チームとリーグの競争力を上げていくに違いない。
クラブW杯の先には、W杯の招致を見据えているはずだ。サウジは30年大会の開催に興味あり、と見られている。30年大会ではなく34年を狙うとも言われるが、W杯開催を手繰り寄せるにはリーグのレベルを対外的に示し、なおかつレベルが上がっていることを発信してもらう必要がある。
ロナウドやベンゼマといったビッグネームから、アフリカや北中米の代表クラスを獲得しているのは、ロビー活動を世界的に展開していくためと推測できる。日本人選手に触手を伸ばしているのも、東アジアでの存在感を強めたいからに違いない。
サウジの有力クラブは、政府が出資するファンドから資金提供を受けている。ビッグネームを買い漁るための資金が、すぐに枯渇するようなことはないのだろう。
問題は国内リーグの「熱」だ。
昨シーズンの1試合平均観客は、9339人だった。6万に近い観衆が押し寄せた試合があれば、300人ほどしか集まらなかった試合がある。
歓声とブーイングが交錯するヨーロッパのスタジアムで戦ってきた選手たちに、サウジのスタジアムはどのように映るのか。物足りなさを覚える選手が出ても不思議ではない。
コロナ禍による無観客試合を経験したことで、選手たちは観衆の存在の大きさを強く認識している。サウジリーグが持続可能な成長を遂げていくには、スタジアムの「熱」がポイントになるだろう。(戸塚啓=スポーツライター)