【コラム】戸塚啓
クラブと選手の理想的な関係 湘南ベルマーレ
2021年03月05日 09:00
サッカー
新型コロナウイルスの感染拡大により、Jリーグ各クラブの経営状況は厳しさを増している。湘南は昨秋にクラウドファンディングを実施した。
遠藤は高校生年代からベルマーレで育ち、2種登録だった2010年にJリーグデビューを飾っている。ドイツ・ブンデスリーガで際立った存在感を示すまでになった彼の土台は、ベルマーレで作られた。反町康治と曺貴裁との出会いが、伸び盛りの才能を刺激し、花開かせた。
自分が育ったクラブを支援する──プロスポーツでは例外的ではないが、簡単なことではない。クラブと選手の結びつきが深いからこそ、実現するものだと言える。
市民クラブとして再スタートを切った生い立ちから、ベルマーレはクラブのスタッフ、選手、ホームタウンの人々、支援企業、サポーターの距離が近い。クラブに関わるすべての人たちが、トップチームだけでなくアカデミーまでを、一体となって盛り立てていく雰囲気がある。そういった環境で育ったからこそ、遠藤はベルマーレの現在を「自分事」としてとらえているのだろう。
ベルマーレからJリーグのビッグクラブの浦和レッズへ引き抜かれ、ベルギーのシントトロイデンを経てブンデスリーガへステップアップしていった遠藤は、ベルマーレのアカデミーにおけるロールモデルだ。コーチたちは「ここで頑張れば、ああいう選手になれるよ」と、子どもたちを励ますことができる。その言葉を支えに、子どもたちはサッカーに打ち込んでいける。
そのうえで、今回の支援である。遠藤の行動に胸を熱くした2021年現在の子どもたちが、5年後、10年後にクラブに恩返しをする立場になるかもしれない。クラブに関わる人たちが作り出す一体感は、21年現在も感じ取ることができるからだ。
クラブと選手の理想的な関係は、現在のトップチームにも見つけることができる。
03年にベルマーレでプロデビューした石原直樹が、昨シーズンから在籍している。大宮アルディージャ、サンフレッチェ広島、浦和レッズ、ベガルタ仙台と渡り歩き、20年に12シーズンぶりに復帰したのだ。
12年と13年に広島でJリーグ連覇の一員となり、J1残留争いも知る経験者は、10代の選手も目につくチームで羅針盤のような存在だ。「プロフェッショナルとは」という答えを、ピッチの内外で示すことができる。
ステップアップしていった選手が、キャリアの終盤に再び戻ってくる。それもまた、自分を育ててくれたクラブへの「恩返しの形」だろう。
選手を大切にするクラブは、選手からも大切にされる。(戸塚啓=スポーツライター)