がん治療におけるロボット手術の“バリュー”とは 早期回復を実現&コスト削減

2024年10月28日 05:00

社会

がん治療におけるロボット手術の“バリュー”とは 早期回復を実現&コスト削減
もうすぐ当院にも導入されるダビンチの新型「DV5」。触覚が搭載された最新機に期待大です Photo By スポニチ
 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で勤務する腫瘍外科医、生駒成彦医師のリポート第5回は「がん治療におけるロボット手術のバリュー」がテーマです。
 前回の記事では「医療のバリューとは何か」について取り上げました。医療のバリューとは、アウトカムの改善をそのためにかかったコストで割ったものであり、患者本位で決定されるべきだという点が重要なコンセプトです。今回のテーマは「がん治療におけるロボット手術のバリュー」についてです。

 がん治療において、ロボット手術がもたらすバリューとは何でしょうか。当院でがんの手術を受けた患者アンケートによると、90%以上の患者が「がん細胞を残さず取り切ること」が最も大切なバリューだと答えました。当然ですよね。一方で「傷の大きさ」が大切だと答えた人は15%ほど。手術後の「痛みの軽減」や「早期回復」が大きな価値として挙げられています。

 当院では、胃がんや膵臓(すいぞう)がんの手術にロボット技術を導入して6年がたち、従来の開腹手術と比較して、合併症の頻度と重症度が半分程度まで減少しています。また、術後の痛みが軽減されたことで、オピオイド(モルヒネなど)使用量が大幅に減少し、入院日数も平均で3日ほど短縮されました(膵切除7日→4日、胃切除6日→3日)。これにより、患者はより早く日常生活に復帰でき、早期回復という点で大きなバリューが認められます。

 コストの面で見ると、手術ロボット「ダビンチ」は1台2億~3億円と高額です。当院での試算では、病院にとって手術1件あたり約5000ドル(約76万円)のコスト増となりますが、米国では1日あたりの入院費が1500~2000ドル(約23万~30万円)と高いため、さらには合併症や再入院の減少により、全体的なコストはむしろ抑えられることが分かりました。日本では「1日あたりの入院費」というシステムにより早期退院が病院の収入減となるケースがありますが、米国では「1入院あたりの定額制」が主流で、病院にとってロボット手術への投資は経営面からもメリットがあるのです。

 また、州外からの患者が多い当院では、ロボット手術を受けた患者さんのヒューストンでの滞在日数が約2週間短縮され、旅費や滞在費の削減(約2000ドル)、さらに早期復職による収入減の改善(約5000ドル)が確認されました。これら医療費以外のコスト削減も、ロボット手術が患者さんにもたらすバリューの一部です。

 ロボット手術の技術は日々進化しており、新たなテクノロジーが次々と開発されています。私自身が取り組んでいる膵腫瘍が術中に光る蛍光技術や、将来可能になるであろうAIによる自動手術のように、今後の技術革新が手術成績をさらに向上させていきます。加速するイノベーションそのものが、ロボット手術のバリューなのです。ロボット手術は、今後もさらなるがん手術の質の向上と、患者さんの早期社会復帰に貢献していく可能性に満ちています。私たち外科医は、今後も患者本位のバリューに基づいた治療と研究を続け、さらなるイノベーションを目指してまいります。

 ◇生駒 成彦(いこま・なるひこ)2007年、慶大医学部卒。11年に渡米し、米国ヒューストンのテキサス大学医学部で外科研修。15年からMDアンダーソンがんセンターで腫瘍外科研修を履修。18年から同センターですい・胃がんの手術を専門に、ロボット腫瘍外科プログラムディレクターとして勤務。世界的第一人者として、手術だけでなく革新的な臨床研究でも名高い。

この記事のフォト

おすすめテーマ

社会の2024年10月28日のニュース

特集

社会のランキング

【楽天】オススメアイテム