【内田雅也の追球】「名手」から漏れた水

2023年11月01日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「名手」から漏れた水
日本シリーズ<神・オ(3)>9回、大山が空振り三振に倒れて試合終了(投手は平野佳)(撮影・椎名 航) Photo By スポニチ
 【SMBC日本シリーズ2023第3戦   阪神4ー5オリックス ( 2023年10月31日    甲子園 )】 これが日本シリーズである。
 手に汗握る攻防が続いた。敗れた阪神も9回裏、一打同点、長打逆転サヨナラで4番……と最高潮の舞台まで粘った。

 敗戦後の監督・岡田彰布に「堪能しました」と伝えると「なあ」とうなずき「ええ試合になって良かったよ」と笑った。

 岡田も好勝負にのめり込んでいた。大歓声も「オレには分からん」と耳に入っていなかった。

 冷静に見返すと結局は守り負けかもしれない。オリックスには幾度も好守があった。マーウィン・ゴンザレスの横っ跳び好捕(2回裏)、若月健矢の盗塁阻止(3回裏)、宗佑磨は大山悠輔の猛ゴロを2度もさばいた(6、7回裏)。好勝負は相手があって成り立つ。わずか1点の差は守備の巧拙だった。

 痛かったのは守備の名手である投手・伊藤将司のミスである。5回表、連打の無死一、三塁から遊ゴロ併殺崩れで勝ち越しの1点を失った。

 1死一塁が残って打順は投手の東晃平。送りバントの場面で伊藤将も内野陣も警戒していた。

 初球は一、三塁手が猛然とチャージするバントシフトで投球はボール。

 2球目。今度はチャージはなかった。しかし、伊藤将は得意技を用意していた。右足を大きく上げ、けん制球と見せかけて打者に投球した。一塁走者・広岡大志は帰塁しかけた。これでスタートは大幅に遅れた。

 東のバントは強めで投手やや右へ転がった。伊藤将が捕球した時、広岡はまだ塁間の中間地点だった。ところが、併殺を狙って焦ったか。二塁送球は低く、バウンドして中堅へ抜けていった。上手の手から水が漏れた。

 1死一、二塁が残り、2死後、宗に2点二塁打を浴びた。痛恨だった。
 「1つアウトで良かったんよ」と岡田も話した。「ゲッツー取れる打球だったからな。最後、ちょっと跳ねて握りそこなったかなあ。いいバントなら1つアウトにしていた。その辺は紙一重よ」。勝負の綾である。

 岡田は「普通になんかできんよ」とシリーズ開幕前に話していた。「緊張もするし、知らない相手。何が起きるかわからんよ」。野手や救援投手は3戦目で慣れてきたが先発投手は初めての大舞台なのだ。緊張や過度の慎重もあるだろう。
 これが日本シリーズである。 =敬称略= (編集委員)

おすすめテーマ

2023年11月01日のニュース

特集

野球のランキング

【楽天】オススメアイテム