「ギータの本塁打みたい」新聞一面を飾った甲斐2世 法大でマネジャー転身から「世界のトヨタ」で大志

2023年12月10日 20:39

野球

「ギータの本塁打みたい」新聞一面を飾った甲斐2世 法大でマネジャー転身から「世界のトヨタ」で大志
高校時代は「甲斐2世」としてドラフト候補だった上田さん(撮影・柳内 遼平) Photo By スポニチ
 東京六大学野球リーグの法大野球部は卒部生の進路先を公表。社会人野球のセガサミーに入社する最速150キロ左腕・尾崎完太投手(4年)ら9選手が野球を継続する。主務としてチームを支えてきた上田龍弘さん(4年)はマネジャーとして社会人野球の名門・トヨタ自動車野球部に加わる。
 「主務」。大学野球ファンでなければ、聞き慣れない言葉かもしれない。

 選手たちをまとめ上げるリーダーが「主将」であり、野球部の運営を担い、部外との窓口も担当するマネジャーたちのトップを「主務」という。高校より「自主性」を求められる大学野球部では重要度の高い存在だ。


 「上田龍弘」。今秋リーグ戦まで法大の主務を務めた男の名。九州の高校野球ファンは、城北の逸材捕手としてこの名を覚えている人もいるだろう。

 2019年4月16日、九州で発行されていたスポーツ新聞の一面に当時、城北の3年生捕手だった上田さんの名が隠し玉のドラフト候補として踊った。二塁送球タイム1秒81の強肩「甲斐2世」――。野球部は取材を受けていたが、まさかの一面掲載。当日の朝、野球部の寮で紙面を確認した上田さん。「何か掲載されるのかなくらいのイメージだったんですけど、自分が“ドーン!”って載っていてビックリしました。ギータのホームランぐらいの大きさだったので、まさかって…。校長先生からも呼ばれて“頑張りなさい”と言われました」。結果的にこの一面が上田の人生を大きく動かした。

 1メートル71、70キロと決して大きくない体からプロ野球の捕手にも負けない爆発的なスローイングを披露する。プロ複数球団の視察を受けていた上田さんはプロ志望届を提出せず、さらなるレベルアップを求めて東京六大学野球リーグの法大に進学することを決めた。

 大学球界で屈指のレベルを誇り、注目度の高い「東京六大学」での活躍を夢見たが、1年時に転機があった。入部した間もない6月、右肘に激痛が走り、病院で検査を受けるとトミージョン手術(側副靱帯再建術)が必要と分かった。手術しても以前のようにプレーできないかもしれない。スローイングを武器にする上田さんは「完治」でないとプレーヤーとして大成する道は厳しくなる。当時の青木久典監督に相談すると「人間的に評価している。チームをサポートしてほしい」と将来的な主務就任を見据え、マネジャー転向を打診された。

 神宮、そしてプロ野球でプレーする夢が崩れようとしていた。すぐに回答することはできず、約1カ月右肘をかばいながら練習を続けた。その期間、無意識のうちにマネジャーの仕事に目が向いた。多くの選手を影から支え、マネジメントする姿が自分よりも大人っぽく見えた。少しずつ迷いは消え、青木監督に「マネジャーをやらせてください」と直訴。指揮官は「選手として活躍する未来も見えているけど、主務として1からチームをつくっていく姿も見えている」と背中を押された。

 キャッチャーミットを置き、ゼロからマネジャーの道を歩んだ。青木監督が見込んだ通り、一歩引いてチーム全体を見る力があった。3年秋には、21年から就任した加藤重雄監督から「主務はお前でいきたい」と大役就任を推された。同じくマネジャーとしてチームに貢献してきた同学年の對馬大浩から「お前に主務をやってほしい。俺は学生コーチになる。違う方向から一緒にチームを支えていこう」と声をかけられ、二人三脚で歩むことを決めた。

 主務の仕事の1つである練習試合のスケジュール決定はチームの浮き沈みに直結する。監督と相談を重ねた上で対戦相手と日程を考える。強敵との連戦するとチームはリーグ戦を前に疲弊しています。一方、レベルが低い相手だとチーム強化にはつながらない。練習試合中は「1つのデッドボールも試合を組んだ自分のせいと思った」と手に汗にぎっていた。チームの調子、控え選手の起用、現在抱える課題を分析し、適切な相手を選択する責任重大な業務だった。

 今秋リーグ戦を終え、主務を引退。卒業後は社会人野球のトヨタ自動車に加わる。元々、卒業後は留学する予定で就活はしていなかったが、アマチュア球界屈指の強豪から野球部マネジャーとしてのオファーが届いた。求められた役割は「地域スポーツ振興」。野球を通して地域を盛り上げ、貢献していくことがミッション。新天地での職に「大学ではチャレンジしきれていなかった部分。新しい視点で取り組んでいきたい」と胸を高鳴らせている。来年4月から「野球界のニュースタンダード」をつくる挑戦がスタートする。

 「マネージャーとしてやりやすい環境を整えてくれたのは加藤重雄監督。“自分のチームをしっかりつくってくれ”と言っていただき凄く感謝しています。マネジャーとして磨いた課題解決の力を社会でも生かしていきたい」。感謝の気持ちを胸に後輩たちへの引き継ぎを終えた上田さん。「甲斐2世」が故障を経て新たな自分と出会い、「世界のトヨタ」へ飛び立つ。(柳内 遼平)

 ◇上田 龍弘(うえだ・たつひろ)2001年7月24日生まれ、熊本県玉名市出身の22歳。築山小4年から玉名イーグルスで野球を始め、玉名中時代は軟式野球部に所属。城北(熊本)では1年秋に捕手転向。3年時には遠投105メートル、二塁送球タイム1秒81の強肩から「甲斐2世」と称され、ドラフト候補として注目を集める。プロ志望届を提出せずに進学した法大では1年時に右肘痛のためマネジャーに転向し、3年秋に主務就任。卒業後はトヨタ自動車に就職予定。

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