キャンプ前半は外角低めしか投げなかった江夏のすごさ

2024年02月02日 11:43

野球

キャンプ前半は外角低めしか投げなかった江夏のすごさ
日本ハム時代の江夏豊投手 Photo By スポニチ
 2月1日といえばプロ野球の“元日”といわれるキャンプのスタート日。プロ野球担当となった83年、ワクワク感と不安な思いで日本ハムがキャンプを張る沖縄・名護に行ったのを思い出す。
 当時、日本ハムのレジェンドと言えば江夏豊投手。阪神のエースとして南海、広島では守護神として活躍。日本ハムでも抑えとして君臨していた。迫力ある風貌、ドスの効いた声。新人記者にとっては高い壁とも思える存在だった。一番の楽しみは江夏投手のブルペン。阪神時代の剛球はないが、1球ごとゆっくり、慎重に投げ込んでいく。単調な投球だがあることに気がついた。

 ひたすら右打者の外角低めにしか投げない。次の日も同じように外角低めオンリー。それもストレートだけ。休日にも金魚のフンのように江夏投手にくっついていると、あるときその説明をしてくれた。

 「外の低めにきっちりコントロールがつかないとピッチングにならない。あそこに投げられるようになったら対角線に投げ分けていくんだ」

 亡くなった野村克也監督も「困ったら外角低めに投げろ」と言った。抑えとして、そこに投げられないと商売にならないというわけだ。それもキャンプ中盤までには仕上げるという。その頃、審判員たちがトレーニングと目慣らしも兼ねてキャンプに集まる。当然、江夏投手が投げる後ろに立ち判定の練習をするからだ。「いいか、続けて外低めに投げるだろう。審判に“今年も江夏はコントロールがいいな”と思わせることが大事なんや。試合になって、ボール全部をゾーンに入れたり、半分ベースにかける。勝負になったとき、ベースをわずかに外すボール球でも審判の右手が上がる。審判をコントロールで味方につけるということや」この話にプロフェッショナルとしての奥深さを感じた。

 プロの若手や大学生でも100球未満で「投げ込みました」と胸を張る投手が多い。もちろん肩は消耗品だから仕方ない面もあるが、リリースポイントや指先の感触がその程度の投球で身につくとは思えない。150キロを超えるパワーピッチャーが主流になりつつある野球界で、40年も前の江夏投手の話は参考になると思う。(落合 紳哉)

<広島時代には…プロ中のプロ同士の思い出>
 江夏投手の広島時代の話。ある試合で山本浩二選手が粘って適時打を放った。ベンチに戻った同選手に江夏投手が「コウジ、ナイスバッティング」と声を掛けると「いやいや、初球の甘い球を打っていれば、あんなに苦労してヒットを打つことはなかったんや」と返した。この言葉に「コイツもプロや」と感心したとか。衣笠祥雄選手とは「サチと飲みに行くとな、必ず途中でユタカ、飲んでてくれと席を外すんや。何しに行くのかと思ったら宿舎に戻ってバットを振って戻ってきていたんだ」と懐かしそう。プロ中のプロ同士の思い出である。

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