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フランス代表、嵐の中のサイクル終焉 エムバペ騒動でますます荒れ模様に

2024年10月17日 22:00

サッカー

フランス代表、嵐の中のサイクル終焉 エムバペ騒動でますます荒れ模様に
フランス代表FWキリアン・エムバペ(レアル・マドリード所属) Photo By AP
 フランス代表がサイクル終焉を迎えている。
 ユーゴ・ロリス、ラファエル・ヴァランヌ、オリヴィエ・ジルーといった大黒柱が代表を去ったのに次いで、頼みのアントワーヌ・グリエーズマンも突如、代表引退を発表。EURO2016準優勝、2018年ワールドカップ優勝、2022年ワールドカップ準優勝などの栄華を築き上げた一時代が終了し、ついにキリアン・エムバペを中心にした新世代に交代しようとしている。

 だが――。「生みの苦しみ」とはこういうのを言うのだろう。どうもぱっとしないのである。

 進行中のネーションズリーグでも、「これがフランス代表?」と言いたくなる試合ばかり。「麻酔でもかけられたよう」(レキップ紙)の比喩も飛び出したほど、見ていて眠くなるのだ。それでもイスラエルに大勝(4-1)、ベルギーにも2戦勝利(2-0、2-1)したのだが、内容で遥かに勝っていた友人国ベルギーを前に、フランス人が申し訳なく感じたほどだった。

 そこに飛び出したのが、キリアン・エムバペの「レイプ」疑惑報道。ケガで今回の代表招集を免除してもらい、ストックホルムで2泊の休暇を楽しんでいたのだが、そこで女性を「レイプした」のだという。

 10月16日夕時点では女性の正体も不明、具体容疑も不明、それどころか本人側に警察から連絡もきていないという怪しい事態。当然エムバペは直ちに容疑を一蹴し、名指しは避けながらも、係争中のパリSG(PSG)による陰謀を仄めかせた。エムバペの弁護士によれば、女性が告訴した時間とスウェーデン紙が「すっぱ抜いた」時間が、完全同時だったという。

 だがこれでフランス中が上を下への大騒ぎになった。なにしろフランス代表のキャプテンであり、フランスが世界に誇るスターなのだからたまらない。新生フランス代表にも突然の大嵐が襲い掛かった格好だ。

 また17日にはエムバペが、当夜、ある女性と同意のうえで関係をもった、と告白。ただ、この女性とはその後ポジティブな交信を交わしており、エムバペとしては訴えたのがこの女性ではないことを祈っているという。

 ネーションズリーグの試合内容とエムバペ「レイプ」疑惑勃発は、期せずして、フランス代表の現在地をよく浮かび上がらせている。新たなサイクルを始動しようとしているが、リーダーもチームの骨格もまだまだ出来上がっていない、という現実である。もっともディディエ・デシャン監督は完全にそれを理解しており、「酸素の入れ替え」という言葉で若いタレントを試しているところだ。2026年ワールドカップまで間があるいまこそ、世代交代スタート期だからだ。

 こうしてパリ・オリンピックで活躍したマイケル・オリゼ(フランスではこう発音中)とマニュ・コネが初招集され、エムバペのキャプテンマークはオレリアン・チュアメニに一時委譲。また9番もPSGで苦戦中のランダル・コロ=ムアニに任せ、グリエーズマンが消えた中盤にはマテオ・ゲンドゥジが再起用された。

 結果は玉石混淆だが、まだいまひとつ。

 たとえばコロ・ムアニは1試合2ゴールを決めて代表脱落を食い止めたが、今後次第。ゲンドゥジは途中投入でガッツを注入したが、中盤はチュアメニ、エドゥアルド・カマヴィンガ、前述のコネ、ワレン・ザイール=エムリ、ユースフ・フォファナ、エンゴロ・カンテ、アドリアン・ラビオら好タレントがひしめく。エンゾ・ミヨという若手も近々登場するかもしれないほどだ。一方注目のオリゼはイスラエル戦で失敗し、次のベルギー戦ではベンチに置かれたままだったが、長期的には貴重な10番候補と目されている。デシャン監督はこの混沌から、徐々にチームの骨格をつくっていくつもりだろう。

 またリーダーシップ問題も浮上している。エムバペがまだ不動のリーダーになりきれていないためだ。

 元代表のビシェンテ・リザラズは、キャプテンは全体バランスを把握する守備的選手に向いており、エゴイズムを求められるアタッカーには向かない、と主張。「エムバペはキャプテンの役割を完全に体現していなかった。他のソリッドな主力にしっかり取り巻いてもらう必要がある」として、ピッチ上のバランスを司る「戦術リーダー」、ゲキをとばして引っ張る「言葉リーダー」、タックルで喝を入れる「戦闘リーダー」、攻撃をつくる「テクニカルリーダー」などが必要だと分析している。

 国民性にもよるが、フランス代表では確かにこれがカギだ。1998年代表は、デシャンが複数の役割を担う完璧なキャプテン像を体現、ジネディーヌ・ジダンは「テクニカルリーダー」だった。2018年代表も複合的で、ロリスが知性で引っ張るキャプテン、ヴァランヌが「戦術リーダー」、ポグバが「戦闘&言葉&テクニカルリーダー」、カンテが「戦術&戦闘リーダー」、グリエーズマンが「テクニカル&戦術リーダー」、マンダンダが陰の「言葉リーダー」だった。フランスは、一人の先輩やスターについてゆく国民性ではなく、強烈な複数の個が平等に、しかし何かの大義に向かって団結したときにのみ、凄まじい力を発揮するのだ。

 エムバペの「レイプ」報道には、さすがのデシャンも「あまりにこういう話が多すぎる」とうウンザリ顔。真相は、①本人がレイプした②本人は無関係だが取り巻きがレイプした③女性個人によるカネ目当ての告訴④エムバペのイメージを悪化させたいPSGが女性を使っておこなった陰謀工作⑤スウェーデンのゴシップ紙が女性を使っておこなった儲け狙いのでっち上げ報道⑥他の何者かによる別目的の陰謀工作、のいずれかしかない。徐々に明らかになるだろうが、エムバペは「何もやましいことはない」と断言している。

 ネーションズリーグは11月に再開する。嵐の中でサイクル終焉を迎えているフランス代表は、次のイスラエル戦(11月14日)に敗北さえしなければ、決勝トーナメント進出が決まる。これからどんなリーダー像とチーム骨格が見えてくるのだろうか。(結城麻里=パリ通信員)

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