【内田雅也の追球】「デンノッホ」の姿勢 苦しい状況を承知のうえで「何とかする」 それがプロなのだろう

2023年06月14日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「デンノッホ」の姿勢 苦しい状況を承知のうえで「何とかする」 それがプロなのだろう
<神・オ>7回、内野安打を放った坂本(撮影・岸 良祐) Photo By スポニチ
 【交流戦   阪神0―2オリックス ( 2023年6月13日    甲子園 )】 阪神監督・岡田彰布に現役時代、最も速かった投手は誰かと尋ねると江川卓だと答える。巨人時代ではなく、「怪物」と呼ばれていた法大時代の江川である。
 早大1年秋、法大3年の江川と初めて対戦し3安打を放った。「必死に食らいついた。すると三塁線突破の二塁打を含め3本打った。その時は7番やったからな。翌日5番に上がって対戦するとボールが全然違った。力の入れ具合が違うんよ」。そういうものである。

 この夜、阪神はオリックス・山本由伸に8回まで2安打無得点と牛耳られた。その2安打を放ったのも7番打者・坂本誠志郎だった。

 坂本もコンパクトに食らいついた。5回裏2死から真ん中152キロを中前打。7回裏2死一、二塁では内角155キロに詰まりながら三塁頭上を襲う内野安打を放った。

 ただ、当代随一の投手はさすがだった。決定打は奪えなかった。150キロ台の速球でもややスライドしたり、シュートしたりしている。あれはカッターやツーシームか。フォークもカーブもあり、制球も優れていた。

 阪神打線が低調なのは確かである。近本光司は4試合続けて安打が出ていない。中野拓夢も4試合で16打数1安打。打線をけん引してきた1、2番に当たりが止まっている。佐藤輝明は2試合続けて先発メンバーから外れた。

 岡田は「いつもいつも打てるわけやない。シーズンなんやから、打てんときもそらあるよ」と話した。そして「打てんときに何とかする、というのがな」と言った。

 苦しい状況を承知のうえで「何とかする」と言いたいのだろう。それがプロなのだろう。

 ドイツの社会学者、マックス・ウェーバーが第1次世界大戦後の1919年、若者たちに向けた講演で語っている。「どんな事態に直面しても『それにもかかわらず(デンノッホ)!』と言い切る自信のある人間。そういう人間だけが政治への『天職(ベルーフ)』を持つ」=『職業としての政治』(岩波文庫)=

 「天職」という本当のプロの姿勢は、政治でも野球でも同じだろう。

 きょう14日はウェーバーの忌日だ。20年、ミュンヘンでスペイン風邪によるとみられる肺炎のため56歳で永眠した。

 岡田は「デンノッホ」と言い切れる指揮官である。その選手たちも同様だろう。=敬称略=(編集委員)

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