阪神のドラ1・下村を元審判員記者がジャッジ!まるでオリ・由伸 本塁近くまで球種判別できず

2023年11月10日 05:15

野球

阪神のドラ1・下村を元審判員記者がジャッジ!まるでオリ・由伸 本塁近くまで球種判別できず
ムチのように右腕が体に巻きつくフォームで力強いボールを投げ込んだ青学大・下村(撮影・木村 揚輔) Photo By スポニチ
 逸材の加入で虎に黄金時代到来や!11年から6年間、NPB審判員を務めた柳内遼平記者(33)がフル装備で選手たちの魅力をジャッジする「突撃!スポニチアンパイア」。今回は38年ぶりに日本一となった阪神からドラフト1位指名を受けた青学大の最速155キロ右腕・下村海翔投手(4年)に突撃した。明治神宮大会(15日開幕)での「アレ(優勝)」を手土産に猛虎軍団の一員となる。 
 11年にNPB審判員になった私は、当時は甲子園のある兵庫県西宮市内に住んでいた。15年に1軍デビューし、翌年に甲子園で阪神―オリックス戦の交流戦も担当。360度から夜空に放たれるジェット風船に「これが甲子園か…」と感動したのを覚えている。時を同じくして西宮育ちの下村は、当時はファンとして甲子園を訪れていた。人生、何が起こるか分からない。西宮に縁ある2人が青学大のブルペンで「対決」した。

 投球開始を告げる「プレー!」を絶叫。打撃練習中の野手陣は奇異の目を向けた。記者がいきなりブルペンで捕手の後ろに立って奇声を上げたことに驚いたもようだ。下村がモーションを始動。リリース直前まで背中に隠れた右腕がムチのようにしなり、体に巻きついた。最速155キロの直球がホップするような軌道を描きミットを鳴らす。「プロ級のボールにはプロ級のジャッジを」と思いを込めて「ストライク!」と声を響かせると、野手陣は「審判、いいボイスだ!」と一転、来場を歓迎する声を上げた。

 投じた73球で「山本由伸2世」と感じた。理由がある。オリックス・山本は文句なしのプロ野球No・1投手だが、ロッテ・佐々木朗の方が直球は速く、フォークはオリックス・宇田川も負けていない。高い制球力を備えた上、直球と同じ腕の振りから投げ分ける多彩な変化球が強打者たちを苦しめる。下村も同じだ。大抵の投手はリリース時に球種が分かるが、下村は直球、ツーシーム、カットボール、フォークは本塁近くでやっと判別できる。普段の記者席からは分からない特性だった。

 大学日本一を決める明治神宮大会(15日開幕)の直前、下村は「マジ」だった。打者を打席に立たせて組み立てる。緩いカーブでカウントを稼いだと思えば、打者に失投と勘違いさせる真ん中から落とすフォーク。さらにはベースの角をなめるツーシームで内、外を突く。カットボールは変化量を投球ごとに変えていた。「どこにでも何でも投げられる」投球術が光った。阪神がドラフト1位指名した理由が分かった。

 投球終了後「良いところを見せようと力んでしまった」と反省した下村。完成度の高い右腕に課題は見当たらないだけに、その発言に驚いた。ただ人気球団の阪神は春季キャンプからマスコミ、ファンの注目度も高い。己のスタイルを見失い「新人の時が一番、輝いていた」と言われた投手を阪神2軍の鳴尾浜で何人も見てきた。右肘の手術もあり「天国と地獄」を見た4年間を忘れないでほしい。

 明治神宮大会へ向けては「チームの集大成。優勝したい」と誓う。阪神の「アレのアレ(日本一)」に続く「アレ」で大学野球を終え、プロに殴り込む。

 《1年秋の故障乗り越え進化》○…下村は九州国際大付(福岡)時代から注目を集め、青学大に進学。1年秋は右肘を痛め、1部自動昇格を決めた2部リーグ最終戦では完封勝利を挙げたが「試合後には肘が曲がらないし伸びなかった。終わったなと思いました」と振り返る。同年12月に右肘を手術し、復帰まで約1年。それでも「トレーニングをモチベーションにした」と前向きに体づくりの期間とした。4年時は常広羽也斗とのダブルエースとして活躍。広島に1位指名された常広とともに、こちらもダブルで「ドラ1指名」を果たした。

 ◇下村 海翔(しもむら・かいと)2002年(平14)3月27日生まれ、兵庫県西宮市出身の21歳。小3から野球を始め、甲武中時代は宝塚ボーイズに所属。九州国際大付(福岡)では1年秋からベンチ入りも甲子園出場なし。青学大では1年秋からリーグ戦に登板。1部リーグ通算24試合で7勝5敗、防御率1・63。50メートル走6秒0、遠投120メートル。1メートル74、73キロ。右投げ右打ち。

 【取材後記】2つの“ミスジャッジ”を犯した。外角直球への投球に「遠い」という感覚がありながら勢いで「ストライク!」と右腕を上げた。ラッキーなストライクに首をひねった下村は「日本シリーズではストライクゾーンが狭かったので、練習から厳しくしています」と高みを見据えていた。

 捕手は阪神・坂本のように巧みなフレーミングで低めを「拾って」いた。あまりに上手だったので「うまいね!低めは多少、外れていてもストライクと言いたくなったよ」と声をかけた。後々、気になって下村に名前を尋ねると「渡部っすよ」と困惑した表情。智弁和歌山では昨年の高校日本代表に選ばれ、今春は1年ながら東都リーグのベストナインに輝いた誰もが知る名捕手。「だよね…。うん、うまくなったよね!」。審判員たるもの、動揺を悟られてはならない。 (アマチュア野球担当・柳内 遼平)

 ◇柳内 遼平(やなぎうち・りょうへい)1990年(平2)9月20日生まれ、福岡県福津市出身の33歳。光陵(福岡)では外野手としてプレー。四国IL審判員を経て11~16年にNPB審判員。2軍戦では毎年100試合以上に出場、1軍初出場は15年9月28日のオリックス―楽天戦(京セラドーム)。16年限りで退職し、公務員を経て20年スポニチ入社。同年途中からアマチュア野球担当。

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