能見篤史氏が投球フォーム分析 「柔の前田」と「剛の東松」 注目の高校生ドラ1候補左腕に迫る

2023年06月27日 07:31

野球

能見篤史氏が投球フォーム分析 「柔の前田」と「剛の東松」 注目の高校生ドラ1候補左腕に迫る
大阪桐蔭・前田悠伍投手の連続写真(一番右〈1〉から一番左〈10〉まで) Photo By スポニチ
 高校野球はすでに沖縄大会が開幕し、近畿地区でも7月1日に兵庫大会が開幕戦を迎える。今年の高校生ドラフト候補では大阪桐蔭(大阪)・前田悠伍、享栄(愛知)・東松快征が双璧の高評価を受ける。そこで両左腕の投球フォーム連続写真を、元阪神、オリックスの能見篤史氏(44=本紙評論家)が分析。能見氏は現役通算104勝、オリックスでは兼任コーチも務めた経験に裏打ちされた眼力で2人のタイプを見極め、「柔の前田」「剛の東松」と評した。 (取材・構成=惟任 貴信)
 能見氏はまず今年の高校生No・1左腕・前田の特長に目を向けた。

 能見氏 前田投手の第一印象は横回転の軸で投げる投手だなと。体の回転をうまく利用しながら、遠心力も使って投げられる。縦と横でどちらがいい、悪いはなく、本人に合っていればいい。ただ僕自身もそうだったが、横軸の動きの中でも、投げる時は縦軸をイメージしているのではないか。あまり腕を横振りすると、体から手が離れてしまうからだ。前田投手の持ち味は、腕が振れるところ。球の重さや球威より、切れで勝負するタイプと見る。

 その上で、フォームの細部に目を移す。

 能見氏 下半身をうまく使って投げられている。加えて<7>の胸の張りがいい。これだけ胸を張れるのは大きな長所。腕がしなり、ボールに一層のパワーを伝えることができるからだ。イメージは弓。引けば引くほど出力が出るのと同じ理論だ。胸郭もうまく使えている。加えて<5>~<6>で前の肩、膝が開かないのもいい。<6>で前の足が地面に着いてから、リリースを前に持ってくるために連動する股関節の動きも問題ない。逆に、こうやって下の力をうまく利用しないと投げられないタイプだろう。上半身ばかりを意識すると、いいボールは投げられない。球速が出ても、打者が速く感じないボールになる。

 前田と同タイプの投手としては現役3選手の名前を挙げた。

 能見氏 横回転の軸で、切れ味で勝負するタイプは、オリックス・宮城投手もそうだし、田嶋投手もそう。ロッテ・小島投手も近いのではないだろうか。もちろん、その3人を超える可能性も、十分に秘めていると言える。

 続いて東松を分析。まず、その力強さに目を見張った。

 能見氏 東松投手の第一印象は球質が重そうだな、と。体の使い方もそうだし、体重もありそうなので、それを生かした、重い球質であろうことは想像に難くない。前田投手とは対照的に、基本的に縦回転の軸で投げているとみる。変化球も縦変化の少し速めのカットボールや、曲がりが小さいスライダーなどの方が、ボールの威力を発揮できると考える。

 「縦回転の軸」の投手と判断した上でフォーム分析を進めた。

 能見氏 下半身の力をリリースに伝える作業がうまい。背筋力も強いのだろう。ここから、どうなるか楽しみだ。下半身が使えているかどうかの判断材料の一つは、前の膝が開くか開かないか。東松投手も開かない。写真の<5>から<6>で、下の力が逃げないように止めている。加えて肩の開きもあまりない。<4>から<5>にかけても投げる腕を隠して前に出てくることができている。打者からすると腕の出どころが見づらいはず。縦回転で投げる投手の特性を発揮できている。肩、膝の開きを抑えつつ、<7>でしっかりリリースまで腕を上げてきており、柔軟性も持ち合わせている。力と柔軟性があってボールにしっかり力を伝えられるのだから、球速が出るのも、うなずける。

 東松と同タイプとして挙げたのは、かつてともにプレーした猛虎のエースの名だった。

 能見氏 今のプロ野球界で同タイプの投手を求めても、パッと思いつかない。少し昔で言えば、井川慶(元阪神など)だろうか。パワー、体の大きさ…そのあたりを総合すると、井川に近いと見る。

 そして2人を比較し「対照的」と評した。

 能見氏 前田投手と東松投手は対照的な投手。軸の使い方、ボールの球質…横回転で切れ味を特長とする前田投手、縦回転で球威を強みとする東松投手。「柔の前田」と「剛の東松」のイメージだ。2人ともまだ高校生。十分な伸びしろも秘めた逸材と言える。

《縦と横の見分け方は体の傾きで区別》
 ◯…能見氏は体の軸の縦回転、横回転の見分け方として、一つの視点を挙げた。「体の軸の横回転と縦回転の違いは、前田投手と東松投手の連続写真の<4>を比較すると、分かりやすい。着目すべきは体の傾き。東松投手は右肩が上がって上からかぶせていくしかないから縦の動きになる。一方の前田投手はそこまで右肩が上がらず、体を回してくるので、横の動きになる」。プロの目は写真の1コマからだけでも、多くの情報を見いだす。

《6・1大阪桐蔭戦で東松が5回6K零封》
 ◯…大阪桐蔭と享栄は6月1日にバンテリンドームで行われた愛知享栄学園創立110周年の記念試合で対戦し、享栄が4―1で勝利した。大阪桐蔭・前田は欠場し、ドラフト1位候補左腕同士の投げ合いは実現しなかったが、享栄・東松は先発して5回2安打無失点、6奪三振と圧巻の投球を披露した。11球団28人のスカウトが集結。阪神・畑山俊二統括スカウト、ヤクルト・小川淳司GM、巨人・水野雄仁スカウト部長ら各球団の編成幹部が熱視線を送り、2投手への注目度の高さを物語った。

 ◇前田 悠伍(まえだ・ゆうご)2005年(平17)8月4日生まれ、滋賀県長浜市出身の17歳。古保利小2年から高月野球スポーツ少年団で野球を始め、6年時にオリックスJr.選出。高月中では湖北ボーイズに所属し、1年時にカル・リプケン12歳以下世界少年野球日本代表として世界一。大阪桐蔭では1年秋からベンチ入りし、2年秋からエース。2年春夏、3年春の甲子園に出場し、2年春優勝。明治神宮大会連覇。最速148キロ。50メートル走6秒5、遠投110メートル。1メートル80、81キロ。左投げ左打ち。

 ◇東松 快征(とうまつ・かいせい)2005年(平17)4月29日生まれ、愛知県東海市出身の18歳。加木屋小1年から加木屋クラブで野球を始め、加木屋中では東海中央ボーイズに所属。享栄(愛知)では1年秋からベンチ入りし、2年夏から背番号1を背負う。最速152キロ。50メートル走6秒1、遠投120メートル。1メートル78、89キロ。左投げ左打ち。

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