【内田雅也の追球】「内弁慶」への重圧、風土 DeNA両外国人投手に顔を出した甲子園の魔物

2023年07月13日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「内弁慶」への重圧、風土 DeNA両外国人投手に顔を出した甲子園の魔物
<神・D>9回、打席に向かう木浪(右)に耳打ちする岡田監督(撮影・北條 貴史) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神5―4DeNA ( 2023年7月12日    甲子園 )】 4―4同点の9回裏、無死一、二塁のサヨナラ機、打者・木浪聖也で阪神監督・岡田彰布が採った作戦は「打て」だった。定石では送りバントではないだろうか。
 岡田は「いや」とクビを振った。「あんなところでバントさせても成功せえへん」。

 確かに難しい状況だ。三塁手に捕らせれば送れるが、相手投手も簡単に三塁側にできる球を投げてこない。守備陣は一、三塁手がチャージする「ブルドッグ」などバントシフトを敷く。打者は相当な重圧がかかる。

 岡田采配の根底にある考え方は「できるだけ選手の重圧を取り除き、楽にプレーさせるか」。難しいことは要求しない。

 だから強攻策だった。しかも普段から「“打て”ゲッツーも含めての“打て”よ」と併殺打もやむなしとしている。気持ちは楽に打てたはずである。木浪が遊飛に凡退したのは結果でしかない。

 試合はこの後、四球の1死満塁から森下翔太が中犠飛を放ち、サヨナラ勝利をもぎ取った。

 勝因はいくつかあるが、相手のミスに助けられたのは確かだ。4回裏はトレバー・バウアーが併殺打コースの投ゴロを捕球後にこぼす失策を演じた。後に同点となった。

 9回裏もJ・B・ウェンデルケンが先頭シェルドン・ノイジーへ四球。送りバントを取りこぼす失策で無死一、二塁となったのだった。満塁にした熊谷敬宥への四球と大いに乱れていた。

 高校野球でよく言われる甲子園の魔物が顔を出したようだった。プロでもある。特に熱狂的な阪神ファンの応援は他球団のスコアラーが「要注意」と伝えると聞いた。「ちょっとしたピンチでも大ピンチのように感じてしまう。平常心ではいられなくなる」。重圧が魔物の正体なのだろう。

 評論家・作家の虫明亜呂無(むしあけ・あろむ)が作家・井上ひさしとの対談で、スポーツにおける緑や風や水……といった「風土」の影響を語っている。『肉体への憎しみ』(筑摩書房)にある。「その風土がどういうふうに視覚や触覚や嗅覚を刺戟(しげき)し、どういうふうにして気分を乗せていくかは、誰にも解(わか)らない」

 両外国人投手は甲子園の風土にやられたのだ。

 今季のDeNA戦はこれでホーム8戦全勝、ビジター5戦全敗と完全な「内弁慶」。敵地はともかく、甲子園では魔物や風土が味方してくれている。=敬称略=(編集委員)

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