栗山英樹氏 “勝利の追求”こそが野球界の発展につながる

2023年09月12日 05:00

野球

栗山英樹氏 “勝利の追求”こそが野球界の発展につながる
球都桐生展を訪れた栗山氏 Photo By スポニチ
 【栗山英樹 帰ってきた熱中先生】「球都」を掲げる群馬県桐生市に先日、足を運んだ。同市の「球都桐生ウイーク」の特別企画として講演に招かれ、シンポジウムにも参加。講演の前には「球都桐生展スペシャル」で桐生の野球史に触れて感激した。
 自分にとって思い出深いのは、左腕・木暮洋投手と強打者・阿久沢毅選手が活躍した桐生高。その歴史も展示されていたが、もっと古い資料に目がとまった。この地の野球の礎を築いた野球人、稲川東一郎氏だ。桐生中(現桐生高)在籍時に野球部を設立し、卒業と同時に監督に。27年に全国中等学校優勝野球大会(現在の全国高校野球選手権大会)初出場に導いた。自宅を練習場に改築し、当時先進的だったウエートトレーニングを導入。資料には選手たちの交換日記もあった。選手たちの考えを知り、後輩たちへ伝えていく。戦術面でもストライクゾーンの9分割を活用し、打者を分析したとある。

 印象的な歴史は55年に出場した選抜。決勝で浪華商(現大体大浪商)と対戦し、後に巨人などで活躍する強打者・坂崎一彦選手を徹底的に敬遠するよう指示したそうだ。2打席連続敬遠の後、唯一勝負した3打席目に2ラン。チームは延長戦の末にサヨナラ負けして準優勝となった。明徳義塾・馬淵史郎監督が星稜の4番・松井秀喜選手(ヤンキースGM特別アドバイザー)に対して5打席連続敬遠を指示したのはその37年後だ。その作戦の是非は別にして、野球が本当に日本に広まる昭和初期に指導者になった稲川氏が、そういう戦術まで考えていたことが心に残った。

 勝つために努力することで野球は発展していく。時代は違えど勝つことを突き詰め、学び続けることは全て今につながる。歴史を振り返ると、稲川氏のように学ぶべき野球人が数多くいる。そういう先人たちのおかげで野球界が成り立っていることを実感した。だから我々は、未来を見るときに過去を勉強しなければならない。

 「球都」を掲げる都市は、他に愛媛県松山市や福井県敦賀市、千葉県木更津市などがある。そんな「球都」が47都道府県にでき、それぞれにプロ系のチームがあるようになれば底辺が広がり、子供たちの野球環境も整っていく。先人たちのためにもそこを目指していきたいと感じた。(前侍ジャパン監督)

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