【コラム】戸塚啓
EURO2024優勝は? 波乱少ない大会
2024年06月15日 15:00
サッカー
世界のサッカーはボーダーレス化で発展している。選手はもちろん指導者も国境を越えて行き交い、テレビやSNSを通じて戦術や技術が共有されていく。20世紀の国際大会には新たな発見や驚きがあったものだが、もはや秘密兵器と呼ばれるようなものはなく、情報の地域格差は存在しない。
人と情報がこれだけ激しく流通すれば、実力が拮抗化してもいいものだ。しかし、成績に大きな変化は読み取れないのである。08年と12年はスペイン、16年はポルトガル、そして前回はイタリアが頂点に立っている。決勝まで勝ち進んでいるのは、W杯の優勝国か強豪と見なされる国ばかりだ。
スペインは08年のユーロから世界の舞台で結果を残していくのだが、自国のリーグのレベルを考えれば納得できるところがある。21世紀のユーロに驚きをもたらしたのは、04年のギリシャぐらいだろう。
なぜ、波乱が起こらないのか。
いくつかの理由が考えられる。
中堅国や新興国の選手がヨーロッパの主要リーグでプレーすると、個々の経験値は上がる。それがそのままチームの成績に反映されていくかと言えば、必ずしもそうではない。
W杯やユーロで優勝した経験を持つ国は、国際試合における「勝ちかた」を身につけている。「勝ちかた」を違う言葉に置き換えれば、「強者としてのプライド」になるかもしれない。
W杯でもユーロでも、あるいはその予選でも、結果を残してきた歴史は選手の自信となる。難しい試合に向かっていくエネルギーとなる。しかも、国際舞台を勝ち抜いてきた歴史は、難しい試合、難しい局面になるほど価値を持つ。勝者の遺伝子を受け継ぐ強国の選手たちは、追い詰められてもなお諦めない。「自分たちも同じことができる」と考える。一方の対戦相手は「また同じ負けかたをするかもしれない」という思いが過る。
ユーロはグループステージで3試合を戦い、その後ノックアウトステージへ突入していく。国際大会で結果を残すチームはラウンド16からギアをひとつ上げ、準々決勝でさらにまた上げる、といったピークの作りかたができる。経験から学ぶことができているのだ。歴史と伝統を兼備する強国が、国際大会で上位を占める大きな理由である。
強国と中堅国・新興国との間に、個人のクオリティで決定的な開きはない。フランスのキリアン・エムバペのような特大の個もいるが、ユーロでは大量得点差がつくような試合は少ないだろう。
ボーダーレス化による中堅国・新興国の個々のレベルアップが、チームの結果に結びつくのか。今回もまた、強国や伝統国が強さを見せつけるのか。世界と戦う日本のヒントになるような国が、出現してくれると嬉しいのだが。(戸塚啓=スポーツライター)