【内田雅也の追球】「大局観」「切所」の采配 激しく用兵が交錯した夜を、阪神・岡田監督は楽しんでいた

2023年07月27日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「大局観」「切所」の采配 激しく用兵が交錯した夜を、阪神・岡田監督は楽しんでいた
<神・巨>7回、坂本は勝ち越しの中犠飛を放つ(撮影・大森 寛明) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神8―5巨人 ( 2023年7月26日    甲子園 )】 3―0リードで迎えた6回表、先発・大竹耕太郎が連打を浴びても阪神監督・岡田彰布は動かなかった。投球が高く浮き、逆球も目立ってきていたのは見えていた。それでもベンチに座っていた。「追い越されるまで、まだまだ投げさそうと思っていた」
 実際、5長短打を浴び5失点するまで続投させた。すでに8勝をあげている大竹への信頼もある。それ以上に「まだ4イニングもある」と先を読む大局観があった。

 3―5となった6回裏、相手投手の代わり端(ばな)をたたいた。2番手・船迫大雅に2人目のシェルドン・ノイジーが中前打。2死二塁となり、登板してきた3番手・大江竜聖に代打・小野寺暖が四球、さらに代打・原口文仁が左前適時打を放って1点差としたのだ。「早めに勝負をかけた」という代打攻勢が成功した。
 この回は巨人監督・原辰徳が3投手をつぎ込み、岡田も連続代打に代走と激しく用兵が交錯したのだった。勝負どころと読んでいたのだろう。

 巨人V9監督で「勝負の鬼」とまで言われた川上哲治は、こうした局面を「切所(せっしょ)」と呼んだ。もとは山道などの通行困難な所を指す言葉だ。川上は転じて<勝負の難関>との意味で使っていた。著書『遺言』(文春文庫)にある。

 阪神が逆転した7回裏もまた切所だった。1死一、二塁で登板の5番手・高梨雄平から佐藤輝明が左前同点打と、また代わり端を打った。さらに坂本誠志郎の勝ち越し犠飛、小幡竜平の2点三塁打で勝負を決めたのだ。

 次々と選手を繰り出す原との采配勝負について岡田は「いやいや、大好きやわ。こっちは駒がおるからな」と楽しんでいた。巨人はクローザーの大勢不在で救援事情が苦しい。「ブルペン陣、やっぱりね、良くないからね」

 プロ棋士の羽生善治が「将棋に勝つためには“他力”が必要」と哲学者・梅原猛との対談で語っている=『教養としての将棋』(講談社現代新書)=。「“自力”だけで自分が描いた絵の通りに勝つなどということは不可能なんです。どうしたら相手の手が自分にとってプラスになるかを考えなくてはならない」

 岡田も将棋を指し、アマチュア三段を持つ。用兵での勝負となれば、選手層で上回れると読んでいたのだろう。「昨日より今日の方が楽しかったな」と笑った。会心の勝利である。=敬称略=(編集委員)

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