【内田雅也の追球】「黄金期」へのキーワード

2023年11月07日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「黄金期」へのキーワード
祝勝会で、あいさつする杉山オーナー(撮影・大森 寛明) Photo By スポニチ
 阪神オーナー・杉山健博は前夜、祝勝会の冒頭、「この日本一はタイガース黄金期の幕開け」とあいさつした。ビールかけ前で、チャンピオンTシャツを着て、口がすべったわけではない。
 その証拠にこの日、大阪・野田の電鉄本社で監督・岡田彰布のシーズン終了報告を受けた際も同じ話をしたそうだ。

 何も水をかけるわけではないが、阪神は優勝する度に黄金時代の到来をうたってきた。前回日本一となった1985(昭和60)年にはスポニチ本紙も「阪神の時代が来た」の大見出しで阿久悠の詩を添えている。2003年も05年も黄金時代をにおわせる空気が漂っていた。しかし、リーグ優勝は18年ぶり、日本一は38年ぶり、と長い年月が必要だった現実がある。

 阪神監督で3年連続最下位を味わった野村克也が2014年に出した著書は、その名も『阪神タイガースの黄金時代が永遠に来ない理由』(宝島社新書)だった。チームのお坊ちゃま体質、選手を甘やかすファンとマスコミ、あしき伝統に染まったフロント……と批判を連ねていた。

 85年日本一監督の吉田義男は著書『阪神タイガース』(新潮新書)で<より強いチームを目指して、補強の大なたをふるわねばいけないはずだった><私という人間の甘さだった>と反省を込めて書いている。日本一となった選手たちをトレードで放出などできなかった。結果が2年後87年の球団最低勝率での最下位。同じメンバーで天国と地獄を味わった。

 今回もFAやトレードなど積極的な補強は行わない方針だ。この日の会談でも確認された。ただし、85年と異なるのは年齢だ。当時のメンバーは選手としてピークの時期にあった。杉山は「今の選手たちは若く、全員が伸び盛りと言える。この選手たちが着実に成長していくことが大事」と話した。「その結果が連覇」という。つまり、黄金時代到来のカギは「成長」にあるとみている。

 トレードやFA、ドラフトなど選手補強の妙で黄金時代を築いたアスレチックスを題材にした2003年出版の『マネー・ボール』について21年出版の『アメリカン・ベースボール革命』は<重要な項目、「成長」が抜けている。この見落としはこの本の盲点だ>と指摘している。首脳陣から言えば「育成」である。

 「成長」と「育成」。志は間違っていないと書いておく。  =敬称略= (編集委員)

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