【内田雅也の追球】直球に弱かった虎が「一撃必殺」 中日・小笠原を沈めた闘牛士の極意

2023年08月02日 08:00

野球

【内田雅也の追球】直球に弱かった虎が「一撃必殺」 中日・小笠原を沈めた闘牛士の極意
<中・神> 6回無死一塁、大山は中前打を放つ(投手・小笠原)(撮影・大森 寛明) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神10-2中日 ( 2023年8月1日    バンテリンD )】 阪神が小笠原慎之介から放った10安打のうち8本が直球を打ったものだった。「弱い」とされていた直球を狙い打ち、6回表途中、6点を奪ってKOしたのだった。
 ポイントは2―2同点の6回表、森下翔太、大山悠輔の連打だった。ともに直球をはじき返し、好機をつくった。

 どんな投手でも投球の約半分は直球だ。プロ野球統計・分析サイト『TSUBASA』によると、特に小笠原は今季これまで16試合、108回で直球を822球投げている。セ・リーグでは戸郷翔征(巨人)の878球に次ぐ多さだった。球種別ではもちろん最多で48・7%を占めていた。

 その直球を打たれ、配球は苦しくなったことだろう。直球を投げる際はより慎重さが要求される。これが重圧となった。

 6回表は1死一、二塁からシェルドン・ノイジーが直球にカーブ3球が外れて四球。満塁から梅野隆太郎が変化球4球のボール球を見極めて押し出し四球をもぎ取った。

 1回表から森下が直球に負けずに10球粘り、2回表は佐藤輝明が直球を引っ張り、右前打を放っていた。立ち上がりから打線全体が直球を打ってきた効果があらわれた勝ち越し点だった。

 2死後、投手・西純矢も直球を打って右越えに3点二塁打して降板に追い込んだのだった。

 これまで阪神打線は「直球に弱い」が定評になっていた。監督・岡田彰布も「みんな真っすぐに差されている。まず真っすぐを打ち返すことよ」と課題にあげていた。

 狙っていたとしても打ち返せたのはスイングの鋭さが増してきたからだろう。以前も書いたが、孫子の兵法にある「険にして短」である。「険」は弓を引いた時のように力を蓄えること、「短」はその力を一気に出し切ることをいう。アーネスト・ヘミングウェーの小説『敗れざる者』で闘牛士が語る、牛を仕留める極意「コルト・イ・デレチョ」である。「瞬時に、まっしぐらに」とルビがふられている。

 直球を打った8安打のうち、7本がその打席での初スイングだった。残る1本も森下がチェンジアップ空振りの後、直球は初スイングだった。つまり、一振りで仕留めた「一撃必殺」だった。

 酷暑の屋外から空調のきいたドームへ移った快適さ。試合前練習を軽めにした体調管理が振りの鋭さを生んでいるのかもしれない。 =敬称略=
 (編集委員)

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