花巻東・麟太郎の野球が上手くなかった世界線を思い描く

2023年10月14日 08:00

野球

花巻東・麟太郎の野球が上手くなかった世界線を思い描く
花巻東・佐々木麟太郎 Photo By スポニチ
 怪物がついに決断した。26日のドラフト会議で1位候補に挙がっていた花巻東(岩手)の佐々木麟太郎内野手(18)が10日にプロ志望届を提出せずに米国の大学に留学することを表明した。国体1回戦の履正社(大阪)戦で敗退し、高校での公式戦が終了。史上最多高校通算140本塁打のスラッガーが、将来のメジャー挑戦の夢を胸に米国で勝負をかける。
 納得の選択だった。昨年5月、岩手県九戸郡にあるライジング・サン・スタジアムでの思い出。春季東北大会の試合後取材で麟太郎は「メジャーの上の世界で戦うことを目標に自分はやっている」と本音を漏らした。そのコメントを聞いていたのは私を含めて関東から出張していた2人の記者だけだった。「どんなルートでも麟太郎はメジャーでプレーすることを逆算するに違いない」と確信。だが、その時点では米国の大学に留学するなんて予想もしていなかった。

 高校通算最多の140本塁打。記者のイチオシは昨年5月24日に春季岩手県大会準々決勝の盛岡四戦で打った67号。逆方向の左中間フェンスを越え、後方にある駐車場まで飛んでいった推定飛距離125メートル弾。まるで右打者が引っ張ったような強烈な一撃。まるで花巻東OBの大谷翔平(エンゼルス)のように逆方向にも軽々とアーチを描く。これが他の高校生スラッガーとの違いだった。

 佐々木は昨春の選抜で甲子園初出場。初戦では無安打に終わり、チームを勝利に導けず。その時、自らの実力を「センスがない」と言った。記者はそれは逆だと思った。

 取材においては己の影響力を考え、感情を抑え、しっかり考えをまとめた上で言葉を紡ぐ。その姿勢は高校生とは思えないほど大人だった。試合では闘志むき出しのプレーを見せ、ベンチからも大きな声で味方を鼓舞する。佐々木は常に野球に真っすぐだった。なぜか、その姿を見る度に記者の中で言葉にならないモヤモヤがたまった。

 中学時代、金ケ崎リトルシニアで佐々木を指導した大谷徹氏がその「モヤモヤ」を解決してくれた。昨年の選抜前に取材した際、中学時代の麟太郎をこう振り返った。

 「子どもは親(佐々木洋監督)を見て育つというけれど、何がすばらしいか、というと人間性。プレーでチームに貢献することはもちろん、自分のことだけじゃなくて周りを見ることができるし、鼓舞して応援する。チームをまとめることももちろんやっていた。麟太郎が主将をやっている時は監督がいらないんじゃないかと思いました」

 そうだ、佐々木は監督向きなのだ。これほど野球が上手くなければ、指導者の道に進んでいたに違いない。記者は無意識のうちに指導者としての適正を感じていたのだ。

 「センスがない」は逆だ。恵まれた野球センスに努力が加わりドラフト1位候補にまで成長した。真っすぐに指導者への道は歩めなくなったかもしれないが、いつかその「適正」を見せてほしい。(記者コラム・柳内 遼平)

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