【内田雅也の追球】伝統の堅守へ 藤井式の辛口採点

2023年11月16日 08:00

野球

【内田雅也の追球】伝統の堅守へ 藤井式の辛口採点
シートノックでノックを受ける小幡(撮影・椎名 航) Photo By スポニチ
 安芸市営球場の三塁側スタンドに腰かけ、右翼後方にキラキラ輝く太平洋を眺める。昔も今も変わらぬ風景である。
 恐らく、阪神が初めて安芸でキャンプを張った1965(昭和40)年2月から変わっていないだろう。多くの先人たちがこの地で海を眺め、汗を流してきた。

 秋季キャンプ最終第4クール初日。監督・岡田彰布の囲み会見はサブグラウンド横に建つ、通称「小屋」で行われた。岡田が指定したのだ。

 懐かしい場所である。岡田は現役時代も前回監督時代も、この小屋でたばこで一服しながら、記者団と雑談していた。日が傾くと寒さが忍び寄ってくる。炭火にあたりながら、よく話した。

 この日は昔を思わせる長い雑談になった。トラ番によると36分間に及んだそうだ。このなかで、岡田は「昔からタイガースの野球は守りよ。それは今も変わらん」と話した。「ホームランの出づらい甲子園を本拠地に、投手を中心とした守りの野球が阪神なんよ」

 村山実がいた62、64年も、打撃が際立った85年や2003年も、そして自身が率いた05年と今年も、優勝を支えたのは投手を中心とした守りの野球だった。猛打の85年ですら「守りは堅かった」と誰もが口にする。

 そんな思いでシートノックを見た。2軍の若手中心のメンバーの守備は見慣れていた1軍とはやはり見劣りする。「そりゃあ、やっぱり……、なあ……」と認めている。小幡竜平の逆シングル捕球や熊谷敬宥のバックトスが際だって見える。

 外野―内野の中継プレーは1本ずつ、○△×印で採点した。阪神コーチを退いた藤井栄治が本紙評論家に就いた90年2月、この安芸で「アカン」と言いながらメモしていたのを間近で見た。あの藤井式にならった。

 だから採点は辛めである。外野手の送球がワンバウンドしたが中継の内野手がうまく拾ったり、本塁送球がハーフバウンドだったりしたのは△とした。34本中、○は21本。約62%にとどまった。

 無口で無表情なことから「鉄仮面」と呼ばれた藤井は外野手の連続守備機会無失策のプロ野球記録を作った。素早い送球でよく走者を刺した。吉田義男、三宅秀史、鎌田実の内野陣とともに、堅守の一翼を担っていた。

 若手には酷だが、藤井式の辛口採点が伝統をつくる。安芸の風景のように、昔も今も変わらぬ野球である。 =敬称略=
 (編集委員)

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