【内田雅也の追球】組織を支える「ナンバー2」 ボスと絶妙なバランス保つ阪神

2023年11月17日 08:00

野球

【内田雅也の追球】組織を支える「ナンバー2」 ボスと絶妙なバランス保つ阪神
練習中に笑顔を見せる平田ヘッドコーチ(中央)(撮影・椎名 航) Photo By スポニチ
 パナソニックには代々引き継がれる松下幸之助のリーダーの条件がある。まずは「愛嬌(あいきょう)」、そして「運が強そうなこと」だという。同社役員を務める知人から聞いた。
 阪神を日本一に導いた監督・岡田彰布はこの条件を満たしている。

 愛嬌はある。優勝を「アレ」と言い換え、「はっきり言うて」と断じて突拍子もない話をする。直情的でどこかスキがある。黙って放っておけないような魅力がある。

 もう一つの「運」。松下は「運が強いこと」とは言っていない。幹部連中を前にオチとして「あんたらは運が良かっただけや」と笑ったそうだ。

 「運が強そうな」人の近くにいると、うまくいきそうな気になる。岡田はじゃんけんが強い。記者団との懇親会で景品や賞金をかけて、岡田対記者団のじゃんけん大会を行うと、終盤に残った2~3人に勝ってしまう。パチンコも競馬も強い。

 この松下の話を引用したうえ、哲学者・鷲田清一が『しんがりの思想』(角川新書)で<上司の命を待つのではなく、一人ひとりが自分で考え、タフに行動する組織がいちばん活力がある>と書いた。岡田が優勝前後に繰り返した「選手個々が自分の役割を全うしていた」という感慨である。

 そのため必要なのが<番頭のような二番手>でサルの集団での実験を引用している。ナンバー1のボスをロボトミー(前頭葉切除)しても<ナンバー2が権力欲を持たずに、しかも余裕とユーモアを持ってまとめていく能力があったら、その集団は決して崩れない>。

 このナンバー2はヘッドコーチ・平田勝男ではないか。同書の内容を平田に伝えると「まさに俺じゃないか」と言った。

 「ユーモア」はもちろんある。日本一祝勝会での駄じゃれ連発あいさつは爆笑を誘った。さらに「権力欲を持たず」が的を射る。昨年、矢野燿大の後任監督候補にあがりながら敗れ、岡田を支える黒子に徹している。「やっぱり、オレは永遠のナンバー2だな」と笑い飛ばしている。

 試合中はベンチで岡田の喜怒哀楽に富んだ話に耳を傾ける聞き役となり、かみ砕いた上でコーチや選手に伝える。練習中は厳しく、優しく選手に対する。この日も安芸で特守を受ける選手を大声で励ましていた。

 ボスとナンバー2。いまの阪神は絶妙のバランスを保っているようである。 =敬称略=(編集委員)

おすすめテーマ

2023年11月17日のニュース

特集

野球のランキング

【楽天】オススメアイテム