【内田雅也の追球】大山の「復調」を感じ取った夜 勝利こそ、窒息を打ち破る良薬となる

2024年04月06日 08:00

野球

【内田雅也の追球】大山の「復調」を感じ取った夜 勝利こそ、窒息を打ち破る良薬となる
<ヤ・神> 8回1死一塁、阪神・大山は左翼線二塁打を放つ(撮影・大森 寛明) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神7ー6ヤクルト ( 2024年4月5日    神宮 )】 勝てば傷心も少しは和らぐだろう。4番打者は辛い。特に阪神の4番は勝敗の責任を負う。田淵幸一も掛布雅之も……岡田彰布も……そんな重責と重圧と闘ってきた。
 大山悠輔は2度の1死満塁でいずれも併殺打に倒れ、ファンのため息を誘った。先頭打者で四球を選び、安打も二塁打も放っているのだが、好機ではなぜか打てない。

 いや、大山だけではない。今季の阪神は好機で「あと1本」が出ず、苦しい戦いを強いられている。この夜5回表の中野拓夢、9回表の森下翔太2本の同点打は今季チーム5、6本目の適時打だった。7試合で総得点は22点あるが、本塁打7本で半分の11点。適時打では7点だけで、残りは内野ゴロ、犠飛、押し出し四球である。

 好機に打てない状態を「チョーク」という。「(息を)詰まらせる」「窒息させる」といった意味で、好機に強い「クラッチ」の反対である。

 なぜ好機に強い、あるいは弱い打者が存在するのか。実際はよくわかっていないのが現状だ。

 野球の統計的分析の元祖、ビル・ジェームズが2004年、アメリカ野球学会(SABR)誌に寄せた『野球抄』で勝負強い(または弱い)打撃について<果たして存在するのか>と分析の難しさを打ち明けている。時期により成績が大きく変動するからである。

 この夜、2本の適時打を浴びたヤクルトのドミンゴ・サンタナは今季、得点圏で8打数6安打と好機に強い。この夜の2本はいずれも追い込まれてから力まず軽打し、内野手の間を抜いていた。

 元ヤクルト捕手、監督の古田敦也は<チャンスに弱い人の特徴>として<振れない人>、<何でも振る人>をあげる。著書『うまくいかないときの心理術』(PHP新書)にある。逆に<勝負強い人>は<状況を冷静に理解し、求められていることを判断していける人>とした。そして肝心な姿勢は<結果に対して一喜一憂しない>。窒息を打ち破るには冷静さと強い心が必要なのだろう。

 ただし勝利こそ百薬の長となる。大山2本目の併殺打は内角シュートを果敢に引っ張った快打だった。開幕前から体調がすぐれないなか、この夜も一塁で打者走者と激突しながら奮闘している。冷たい雨に打たれながら、終盤粘って勝ちきった。勝利の笑顔にまみれ、復調への夜だったとみている。 =敬称略=
 (編集委員)

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