【内田雅也の追球】幸運は準備を好む 野球の神様がくれた阪神8回の逆転劇

2023年08月05日 08:00

野球

【内田雅也の追球】幸運は準備を好む 野球の神様がくれた阪神8回の逆転劇
<D・神> 8回2死三塁、糸原は中前適時打を放つ (撮影・須田 麻祐子)  Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神5-2DeNA ( 2023年8月4日    横浜 )】 阪神8回表の逆転劇には幸運な安打がついて回った。
 先頭・森下翔太の三塁線ゴロが内野安打となった。2死後、シェルドン・ノイジーの右前飛球はテキサス性のポテン打となって同点。坂本誠志郎の右前打もポテン打だった。木浪聖也の右越え2点打はフェンス直撃だったが、代打・糸原健斗の中前適時打もポテン打だった。

 ただ、ポテン打が3本を幸運だけで片づけてはいけない。ノイジーは内角速球に詰まりながら、坂本は低め速球に食らいつき、糸原はカーブを拾って打った。150キロ台速球に振り負けず、変化球に体勢を崩されても外野まで運んだわけだ。クリーンヒットではないが打撃技術だろう。

 今季過去5試合、無得点だったDeNAセットアッパー伊勢大夢の傾向と対策も練っていたことだろう。

 ドジャース球団社長時代、ジャッキー・ロビンソンを登用し「人種の壁」を破ったブランチ・リッキーは「幸運」を嫌った。「あらゆることを想定して常に準備を重ねておくことだ。幸運とは準備の残余物にすぎない」

 19世紀の科学者ルイ・パスツールの名言「幸運はよく準備された実験室を好む」に通じる。ポテン打は準備を好むのだ。

 日本では古くからこうしたポテン打を心と結びつけてきた。明治時代、草創期の日本野球をリードした一高(今の東大)ではポテン打を「人格的ヒット」と呼んだ。名著『甲子園の心を求めて』の佐藤道輔が監督を務めた都立大島高では「テキサスヒットは闘志、努力の安打」と言い合った。

 現代のプロでもそんな精神論が必要な時はある。今は真夏の正念場、胸突き八丁なのだ。

 一方で、たたえたいのは逆転直後の8回裏、先頭打者の左翼前ライナー性飛球を難なく捕った植田海の守備である。あの当たりは前に落ちる安打の可能性は十分あった。隠れた好守だった。

 他にも牧秀悟の三遊間ゴロ、三塁線ゴロをさばいた木浪に佐藤輝明。9回裏1死の木浪も三遊間ゴロを美技で刺した。

 いずれも打球傾向を頭に入れての位置取り、一歩目スタートの良さがあった。準備ができていた。ミスが相次いだ相手との差が垣間見える。守り勝ちだったのだ。

 野球の神様が見ている。幸運はよく準備されたチームを好む。 =敬称略=
 (編集委員)

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