【岡田阪神18年ぶりVの裏側(1)】生え抜き野手の育成へ ドラフト戦略の転換がついに結実した

2023年09月15日 07:00

野球

【岡田阪神18年ぶりVの裏側(1)】生え抜き野手の育成へ ドラフト戦略の転換がついに結実した
2020年ドラフトで指名あいさつを終え、矢野燿大監督(当時、右)と並んでガッツポーズするドラフト1位指名の佐藤輝明内野手(近大) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神4ー3巨人 ( 2023年9月14日    甲子園 )】 なぜ、岡田阪神は18年ぶりにリーグ制覇を成し遂げることができたのか――。その要因を探る連載の第1回。今季のオーダーは基本的に、助っ人以外は近本光司、大山悠輔、佐藤輝明、中野拓夢ら生え抜きで固められた。それを可能にしたのは8年前の布石。球団は15年オフに助っ人、FA(フリーエージェント)補強重視だった従来のチーム強化策から方針を大転換し、生え抜き野手育成を最重要課題に掲げた。そして16年から昨季までの金本知憲監督、矢野燿大監督が若虎を鍛え、育てた7年間が、今のチームの土台となった。
 大山が決勝犠飛を放ち、佐藤輝が20号2ラン――。最後も生え抜きの主砲2人が打線をけん引し、18年ぶりに歓喜の瞬間を迎えた。その布石が打たれたのは、8年前だった。

 リーグ3位に終わった15年。優勝した05年以降10年間で7度Aクラス入りしながら、勝ちきれない年が続いていた。この年も投打に戦力は充実。打線はマウロ・ゴメス、マット・マートンを中軸に福留孝介、西岡剛、鳥谷敬らが脇を固めた。投手もランディ・メッセンジャー、藤浪晋太郎、能見篤史、岩田稔ら先発陣がそろい、守護神に呉昇桓(オ・スンファン)がいた。

 それでも勝てない。助っ人、FA補強による、チーム強化策に限界を感じた年だった。そこで阪神は方針の大転換を決断。当時の坂井信也オーナーは「一度つぶしてしまって、新しくつくっていく」という表現を用いた。球団幹部は「生え抜きの主力野手を育てて地力を養い、足りない部分を外国人選手、FAで補うチームをつくるべく、土台づくりから着手しました」と振り返る。

 その第一歩として金本知憲監督を招聘(しょうへい)。新指揮官が最重要課題に掲げたのは生え抜き野手の育成で、「補強は最小限、育成は最大限」を合言葉に手腕を振るった。まず、同年からドラフト戦略を見直した。即戦力投手や話題性に引っ張られがちだった従来戦略から、5年先を見据えた補強ポイント最重視の指名方針へと切り替えた。

 同年1位の高山俊は1年目に新人王を獲得も、2年目以降、伸び悩んでいる。ただ阪神は翌年も田中正義、今井達也、柳裕也ら投手豊作のドラフトで大方の予想を覆し、大山悠輔を1位指名。金本監督の決断だった。2年連続のバッテリー以外の野手1位指名は通常ドラフトでは球団史上初となった。これが、今季の「不動の4番」誕生へとつながった。

 大山を1年目から英才教育した金本監督だったが、18年限りで志半ばの退任となった。それでも矢野燿大監督とフロントが路線を継承。18年に近本光司、木浪聖也、小幡竜平、20年に佐藤輝明、中野拓夢らを指名。補強ポイント最重視の野手指名方針を貫き、各ポジションのレギュラー候補を獲得していった。21年開幕オーダーは外国人2人を除く全員が生え抜きと、球団では74年以来の布陣で一つの形を示した。さらに中位から下位で逸材も発掘。金本監督は青柳晃洋、才木浩人、糸原健斗らを見いだし、矢野監督も中野、村上頌樹らの指名を先導した。2人の将の「目」も大きな戦力となった。

 15年オフに球団が一つの理想に掲げたのは「常に28~32歳の生え抜き主力野手がいるチーム」だったが、当時は「そこがほぼ空白だった」(球団幹部)。今季まさにその年代の近本、木浪、大山、梅野隆太郎、坂本誠志郎らが攻守の軸を担い、糸原、原口文仁、熊谷敬宥、島田海吏らが代打・代走の切り札に控える体制ができた。8年前にまいた種が結実。嶌村聡球団本部長も「(自身が直接的に関わり始めた)5年前に目指していた100とは言いませんが、近いものはある」とうなずく。並行して次世代、次々世代を見据えた戦略も推進しており、森木大智、門別啓人、井上広大、前川右京らが出番を待っている。

 「超変革」でチームを解体し、新たな土台づくりに着手。「オレがヤル」の姿勢がチームに自覚と自信をもたらした。7年間で鍛え上げられた猛虎戦士たちが成し遂げた「A.R.E.」だった。 (阪神取材班)

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