月亭方正(2)落語の師匠は月亭八方だけど「芸能界の師匠はダウンタウン。どんだけ色々もうたか」

2024年04月08日 11:20

芸能

月亭方正(2)落語の師匠は月亭八方だけど「芸能界の師匠はダウンタウン。どんだけ色々もうたか」
これまでの芸能人生を語る月亭方正 Photo By スポニチ
 【月亭方正インタビュー(2)】
◆見たことも聞いたこともなかった落語◆

 ―東野幸治さんに落語を薦められたという話は聞いたことがあるんですけど?

 「その頃よう飲みにいっててね。お客さんの前で笑いをとりたい、とか言ってたら、落語は?桂枝雀とかおもろいで、みたいなこと言われて。正直、なんで落語やねんと思いました。でも先輩に言われたし、聴いたか?って言われて聴いてないとも言われへんし、それで初めて聴いたら、何これ?ですわ。なんでこんなおもろいの?お年寄りのものちゃうの?と感激でした。古典芸能はあえて見なかったんです。新しいものを作らなあかんと思ってたから」

 ―それはやはりダウンタウンさんの影響だったんですか?

 「そう、ダウンタウンイズムです。古典芸能はぶっつぶすみたいな。2人はひと言も言ってないんです(笑い)。ぼくの思い込み。後でよう聞いたら、2人とも落語聞いてたっていうんやから」

 ―(笑い)

 「松本さんなんか近くの公民館とかに噺家が来たら、必ず見にいってたんです。なんやねん、それ…ですわ」

 ―で、落語に傾倒していく?

 「その前に新喜劇にも興味を持ってたんです。でも、新喜劇はすぐできない」

 ―劇団員が必要ですもんね(笑い)。

 「そう。ところが、落語には登場人物いっぱい出てきて、1人で新喜劇できるんです。そんときに2度目のガッツポーズですわ。よっしゃ、人生でやること見つかった」

 ―それからどう行動されたのですか?

 「枝雀さんの“阿弥陀池”を覚えたんです。でも、勝手にやったら噺家さんに絶対怒られる。当時で20年この世界でやってたから、落語の世界は知らんといっても、それくらいのルールはわかる。誰かおらへんかな、免罪符。そういや、(月亭)八光が落語好きとかゆうてたな。八光に電話したら“わかりました、方正さん、ぼくの弟子になってください”って言うから“いやいや本気やねんて。とりあえずやりたいねん”って言いました」

 ―八光さんを落語家と認識されていなかったんですね(笑い)。

 「全然。着物姿見たことないし、落語の話も聞いたことないし。でも、おかげでお父さんの八方師匠を紹介してもらって、師匠が開いている勉強会に出席させてもらうことができました」

 ―だけど、そう簡単に高座に上がれない。

 「そうなんです。すぐやりたいけど、とりあえず半年くらい勉強会に通ってから、弟子にしてください!と言おうと思ってたんです。ほんなら1回目の勉強会打ち上げでベロンベロンに酔ってもうて、師匠に、月亭くださいって言ってまうんです。そしたら師匠が、ええよって」

 ―簡単でしたね(笑い)

 「“ホンマですか!”“うん、ええよ。それに方正でええやん。八方の方もあるし”、“一筆書いてください”、居酒屋のランチョンマットみたいな紙に書いてもらって今も持ってます(笑い)」

 ―(笑い)

 「後から聞いたら、師匠はぼくが噺家になるとは思ってなくて、山崎邦正が落語をするときに月亭方正を名乗るみたいなもの、と思ってたようです」

 ―こんなに熱心な弟子になるとは思わなかったんでしょうね。

 「勉強会のたびにぼくがいるんです。1年半ほど経ったとき、師匠に“本気なんか?”って言われて。“上方落語協会に入るか?でも、ここから先落語やーめたとなったら、芸能界辞めろよ”って言われました」

◆身も心も上方落語家に!住み慣れた東京離れて関西へ◆

 ―それで覚悟を決めて東京から戻って来られた?

 「はい。西宮出身やけど20歳から東京に行って45歳までいたんです。あのさあ、とか普通に言うようになってしもて。ほんだら上方の言葉なのかどこの言葉かわからへんようになってた。これは上方落語の中にちゃんと身を投じなかったら、めちゃくちゃ中途半端になってしまう。息子が生まれるというタイミングで、娘が小学校3、4年生。いろんなタイミングでしたね」

 ―奥さんは?

 「そこはね、ついてきてくれました。何も言わんと。妻は、ぼくが家で稽古してるのを聞きながら、これなら大丈夫やって思ったらしいですわ」

 ―もう転職ですね。

 「そんときは夢中やからね。夢の中で本気になって獲りにいってるから。むしろ、この夢を取り上げられるのが怖くて。転職とかいうより、とにかく本気でした」

 ―今、目標にされていることは?

 「あと4年で還暦なんです。今はどっかカッコつけたりとかしてるところはあるけど、もうじじいやし、どう思われても構わへん。それと落語家になって20年。なんか自分の知らんおれみたいなんがヌルッて出る気がしてるんです。それを高座で出したいかな」

 ―まだ自分の中でどういうものが出てくるのかわからない?

 「わかんないですねえ。落語家になる前もどんな感じになるんやろ?ってわからなかったですもん。でも、それがおもしろいんだと思います。自分が自分のことをわかってたらおもしろくないんでしょうね」

 ―最近何か自分の中で変化を感じたことはあるでしょうか?

 「よう笑うようになりましたね。なんかおかしいんですよね。今まで笑っていなかったこともおもしろく感じるようになってきて、これは成長だと思ってます」

 ―成長ですか。

 「人がすべって恥ずかしがっているところ、一生懸命やってコケてるところ。そんな昔はなんとも思わなかったところも、今は笑えるようになったんです。おもろいの円が大きくなったのかな」

 ―なるほど。

 「松本さんはめっちゃ笑うんです。こんなことでも笑てるわ、とかよく思ってたんですけど、そういう円がデカかった」

 ―少し近づいた?

 「いやいや、松本さんは本当に天才。この世界に入っていろんな人を見てるけど、本当に天才。いないです、あんな人。落語の師匠は八方師匠ですけど、芸能界の師匠はダウンタウン。もうどんだけ色々もうたか。だからやーめた、と言ってほしくないですねえ」

 ―ありがとうございます。では最後に独演会について少し意気込みの方もお願いできればと思います。

 「普通は小ネタでまずは客席をほぐして、その次にミドル級を持ってきて最後に人情話なんですが、今回はバンバンと、大ネタを2席やろうかと思っています。落語家になって15年、人間でゆうたら最も元気のある年齢。突っ走ってるぼくを見ていただきたいです」=終わり

 【取材を終えて】「落語に専念したいから関西行きたいねん」と最初に相談したのは夫人だった。加えて「テレビの仕事なくなるかもしれん」。そう告げても、夫人は何も動じなかったという。テレビの世界で大成功した夫が必死の形相で落語に打ち込んでいる姿を見て、失敗するわけがないと思っていたのだろう。
 上方落語協会の中には、タレントの印象が強すぎるため加入に難色を示す声もあったそうだ。今では上方屈指の落語家。人間の本質は傍目からわかるはずがない。つくづく思った。(江良 真)

 ◇噺家生活15周年を記念した月亭方正独演会が5月から3都市で開催される。5月10日、大阪・なんばグランド花月(ゲスト月亭八方)。31日、東京・伝承ホール(ゲスト林家たい平)。6月3日、愛知・Niterra日本特殊陶業記念会館ビレッジホール(ゲスト笑福亭鶴瓶)。FANYチケットなどで発売中。

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