【内田雅也の追球】失われたボールを求めて

2023年11月04日 08:00

野球

【内田雅也の追球】失われたボールを求めて
甲子園歴史館に展示されている1985年リーグ優勝のウイニングボール Photo By スポニチ
 あの日、最後は投ゴロで、リッチ・ゲイルが捕って一塁送球、ランディ・バースは左手にはめたファーストミットでしっかりとつかんだ。直後、マウンドへ走り出して胴上げに加わった。
 阪神前回日本一の瞬間である。1985(昭和60)年11月2日、日本シリーズ第6戦、西武球場(現ベルーナドーム)。9回裏2死、西武・伊東勤(本紙評論家)を打ち取り、日本一を決めた。

 あれ?この時のウイニングボールはどうしたんだろう?記憶があいまいで思い出せない。

 YouTubeで見ると、捕球後のバースが走り出して映像が切り替わり、行方はわからない。

 甲子園歴史館には同年セ・リーグ優勝時のウイニングボールが展示されている。あの年8月12日の日航機墜落事故で犠牲となった球団社長・中埜肇の遺族が寄贈した。

 リーグ優勝を決めた10月16日のヤクルト戦(神宮)。最後は投ゴロで一塁手・渡真利克則が捕球。「絶対に確保しろよ」とマネジャーに言われ、ポケットにしまった。後日、チーム全員のサインを寄せ、中埜の霊前に供えた。同館関係者は所蔵品リストを確認し「見たことがありません」。

 ならば、当時監督の吉田義男か。聞けば「ありません。私の元には記念になるようなものは、ほとんどないんです」。

 球団か。役員に問い合わせると「わかりません」。長く球団に携わった元球団社長に問うと「バースが持ってないか」。

 野球殿堂博物館の職員も「うちにはありませんが、バースさんが持っていませんか」。と言うのも今年1月13日にあった殿堂入り通知式で、米国の自宅とオンラインでつないだ際、バースの後方にトロフィーやボールなど多くの記念品が映っていたというのだ。

 そんな時、問い合わせていた、当時阪神担当だった先輩から「思い出した」と連絡があった。「胴上げの最中にバースがなくしてしまった。探したが見つからなかった」。そんな記事、自社データベースになかった。後日、話題になり、紛失が判明したらしい。聞いた覚えがある。阪神日本一のボールはないのだ。

 今回、リーグ優勝時のボールはいま、監督・岡田彰布が持っている。2リーグ制2度目となる日本一に王手をかけ、きょう4日、第6戦を迎える。ウイニングボールを手にできれば、歴史的にも貴重な唯一の1球になる。 =敬称略= (編集委員)

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