愛された「ふてほど」傑作誕生の軌跡 世帯視聴率1桁でもヒット 録画1位!クドカン作劇“固有名詞の力”

2024年04月07日 12:00

芸能

愛された「ふてほど」傑作誕生の軌跡 世帯視聴率1桁でもヒット 録画1位!クドカン作劇“固有名詞の力”
1月クール最大の話題作となり、視聴者に愛された金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」(C)TBS Photo By 提供写真
 俳優の阿部サダヲ(53)が主演を務めたTBS金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」(金曜後10・00)は3月29日、15分拡大で最終回(第10話)を迎え、完結した。令和だからこそ誕生したドラマ史に残る傑作。その軌跡と奇跡を振り返り、視聴者にこよなく愛されたワケを探る。
 <※以下、ネタバレ有>

 宮藤官九郎氏がオリジナル脚本を手掛けたヒューマンコメディー。「池袋ウエストゲートパーク」「木更津キャッツアイ」の宮藤氏&阿部&磯山晶プロデューサーが「タイガー&ドラゴン」以来19年ぶりにタッグを組んだ。主人公は1986年(昭和61年)から2024年(令和6年)にタイムスリップしてしまった“昭和のダメおやじ”体育教師の小川市郎。彼の“不適切”な言動がコンプライアンスで縛られた令和の人々に考えるヒントを与えた。

 毎回、昭和と令和のギャップなどを小ネタにして爆笑を誘いながら、「多様性」「働き方改革」「セクハラ」「既読スルー」「ルッキズム」「不倫」「分類」、そして最終回は「寛容」と社会的なテーマをミュージカルシーンに昇華。コンプラ社会に押し付けがましくなく一石を投じる宮藤氏の意欲的な筆が冴え渡り、インターネット上で大反響。1月クール最大の話題作となった。

 全10話の期間平均世帯視聴率は7・4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。この数字だけを見れば、ヒット作とは呼べないかもしれないが、配信全盛となった今、リアルタイムの世帯視聴率は指標の一つに過ぎない。

 そもそも、ゴールデン帯(午後7~10時)の総世帯視聴率(HUT、関東地区)は21年=58・0%、22年=52・8%、23年=49・6%(いずれも年間平均)と8・4ポイントも激減。また、世帯視聴率は年配層(65歳以上)の視聴動向が反映されやすく、金曜午後10時台はテレビ朝日「報道ステーション」(後9・54)がほぼ同時間帯横並びトップに立つ。

 7・9%だった最終回(後10・00~11・09)の世代別視聴率を見ると「ティーン層(13~19歳)」「F1層(女性20~34歳)」「F2層(女性35~49歳)」「F3層(女性50~64歳)」は「不適切にも…」が同時間帯横並びトップ。年配層がメーンとなるNHK連続テレビ小説や大河ドラマとは異なるターゲットをしっかり捉えた。

 「不適切にも…」は「録画再生率」「録画視聴率」とも呼ばれるタイムシフト視聴率(録画機器などで放送後7日以内、168時間以内に視聴)も好調だった。第9話(3月22日)は10・6%をマーク。3月18~24日の週だと、全番組唯一の2桁で、タイムシフト視聴率ランキング1位。実は初回(1月26日)から9週連続1位だった。

 TVerやNetflixなど配信の詳細な数字は公表されていないが、視聴人数の上積みが見込まれる。

 視聴者に“愛されるにもほどがある!”だった今作。その要因は、脚本&キャスト・スタッフの総力はもちろん、「発明」と言っても過言ではない“お断りテロップ”、昭和と令和それぞれに善し悪しはあるものの、令和における生きづらさ“モヤモヤ感”を巧みにすくい取った時代感覚、日本の昔話をメタファーにした「Creepy Nuts」の主題歌「二度寝」など、枚挙にいとまがない。

 SF要素もあったため、SNS上で考察が展開され、盛り上がりに拍車。ただ、第7話(3月8日)「回収しなきゃダメですか?」は“伏線回収ドラマ”がもてはやされがちな昨今の風潮へのアンチテーゼのようにも感じられた。最終回の“最後の注釈テロップ”「2024年当時の表現を…」はまさに予測不能だった。

 今回、記しておきたいのは「固有名詞のパワー」。特に昭和パートには毎回「セーラーズ」「シェイプアップ乱」「宜保愛子」「おれは男だ!」「男女7人夏物語」「金妻(金曜日の妻たちへ)」「アグネス・ラム」「板東英二」「ジェームス・ブラウン」「大江千里」などの懐かしのワードが次々に登場。昭和世代の視聴者は“説明不要”で一気に当時へタイムスリップ。宮藤氏の抜群のチョイスが爆笑やノスタルジー、共感を呼んだ。

 宮藤氏と磯山プロデューサーのゴールデンタッグは99年に6作品が放送されたTBSの深夜ドラマ「コワイ童話」シリーズ(1話30分、4話完結)の「親ゆび姫」(9~10月)以来、四半世紀。今回は阿部が主演として加わる座組で、奇跡のような家族の物語を紡ぎ上げた。オリジナルで新たな“鉱脈”を発掘したのも、作品の価値を高めた。

 最終回オンエア後は“ふてほどロス”が広がり、続編やスピンオフ制作に期待が高まっている。

 最終回の約1週間前に行ったスポニチアネックスの取材に、磯山プロデューサーは「素晴らしいアイデアがあれば、やぶさかではないんですけど。宮藤さんとも話をしたんですが、これなら!というものが見つかっていません。設定を考え始めると、これがなかなか難しくて、沼にハマってしまうんですよね(笑)」と回答。番組公式SNSは5日、「またいつの時代か…みなさんと会える日まで」とラスト投稿。2人の“創作の泉”が湧くことを願ってやまない。

おすすめテーマ

2024年04月07日のニュース

特集

芸能のランキング

【楽天】オススメアイテム