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【内田雅也の追球】深謀の「真っすぐ」発言

2024年06月03日 08:00

野球

【内田雅也の追球】深謀の「真っすぐ」発言
<ロ・神>フォークを投じる才木(撮影・須田 麻祐子) Photo By スポニチ
 【交流戦   阪神1-0ロッテ ( 2024年6月2日    ZOZOマリン )】 先輩の野球記者、かつてのトラ番からよく聞いた話に「シュートひと言、90行」がある。田淵幸一(本紙評論家)が阪神で活躍した1970年代の話である。
 田淵が本塁打を打てば、試合に負けていようが1面は決まっていた。ところが、敗戦後の田淵は何も語らない。打った球を「シュート」とだけ言い残してロッカールームに消えていった。それでも当時のトラ番は1行15字×90行を締め切りに追われながら書き上げた。

 そして球種はいつもシュートだった。直球やスライダーを打った時でも「シュート」と言った。

 なぜか。若いころの田淵は内角球、特に体に食い込んでくるシュートを苦手にしていた。だから、新聞記事を読む相手にそのシュートを打ったと思わせたかったのだ。次回対戦に向けての伏線という深謀である。

 この日のZOZOマリンスタジアム。1―0完封、それも「スミ1」で完封した阪神・才木浩人はヒーローインタビューで「何が良かったですか?」と聞かれ「真っすぐですね」と答え、いたずらっぽく笑っていた。

 おそらくウソだろう。もちろん速球も良かったのだが、実際はスライダーやフォークを多投していたからである。

 大型連勝を止められたロッテ監督の吉井理人も「強い真っすぐにやられたのか?」という問いに「いや、変化球じゃないですかね。今日は」と答えていた。「変化球多かったんで、うまくかわされたように思います」

 才木のウソには田淵のような深謀や心理作戦も含まれているのではないか。偵察の先乗りスコアラーはいるが、次回対戦に向け、相手が「真っすぐ」をマークしてくれれば、スライダーやフォークがより生きる。

 素直で明るい、25歳の剛腕は投球術同様に、したたかさも備えるようになっていたわけだ。

 少し前だが、監督・岡田彰布が今季、選手たちが発する「調子はいい」「調子は良かった」というコメントに疑問を呈していた。「調子いいと聞けば“良くてあの程度か”となるやろ」。かつては活躍しても、「調子悪い」と答えてけむに巻くのが常道だった。

 ただ、才木はやはり正直者だった。アナウンサーが「フォークが良かったように見えましたが」と突っ込むと、少し間があって「そうですね。良かったです」とまた笑っていた。 =敬称略= (編集委員)

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