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【内田雅也の追球】原点の美しい“汚れ”

2024年06月08日 08:00

野球

【内田雅也の追球】原点の美しい“汚れ”
<神・西>2回、佐藤輝はヘッドスライディングで先制の生還を果たし、ユニホームは泥だらけに(撮影・後藤 大輝) Photo By スポニチ
 【交流戦   阪神5-1西武 ( 2024年6月7日    甲子園 )】 午後2時半、甲子園球場一塁ベンチに座り、阪神練習開始の風景を眺めていた。ベンチ裏から佐藤輝明が出てきた。
 ベンチには古株記者が2人。立ち止まり、サングランスを外し、帽子を取り、直立して「こんにちは」とお辞儀した。

 変わったなと思った。5月15日に登録抹消。2軍で過ごした約3週間の日々が変えていた。監督・岡田彰布が降格理由に打撃不振や拙守よりも「態度」をあげていた。

 野球の神様に教えられたのだ。太陽の下、汗と泥にまみれ、原点にかえった。野球への真摯(しんし)な姿である。

 復帰初打席は2回裏先頭、中前打を放った。1死二、三塁から一ゴロで先制の本塁へ還った。ヘッドスライディングだった。ユニホームについた土が勲章のようだった。

 汚れたユニホームは美しい。

 小学1年生、西宮市の甲東ブルーサンダースで野球を始めたころの姿ではないか。喜多川泰の小説『One World』(サンマーク出版)に『ユニフォーム』という短編がある。補欠だった息子が初めて試合に出た夕方、母親は「こんなに汚してきたの初めてね……洗うの大変だなぁ」とうれし涙を流して洗う。

 「もしオレのユニホームが汚れていなかったら言ってくれ」と大リーグ通算最多1406盗塁のリッキー・ヘンダーソンが語っている。「それは、その試合で何もしていなかったという意味だ」。リトルリーグの時代からずっと泥だらけでやってきたという。

 原点は強みになる。大リーガーは俗に「ボーイズ・オブ・サマー」(夏の少年たち)とも呼ばれる。「青バット」の大下弘は「童心」を糧にしていた。岡田自身も少年時代を忘れてはいない。

 連敗で貯金を使い果たし、岡田が「開幕」と位置づけた一戦。ミーティングで「ここから再スタート」と訓示していた。

 5回表、1点差に迫られ、なお2死一、二塁。木浪聖也が三遊間ゴロを飛びついて止めた(内野安打)。左前に抜けていれば同点だった。

 前川右京は打席で必死に食らいつき適時打と2四球をもぎ取った。森下翔太も外角球に飛びついて打点をあげた。4番で沈黙していた近本光司は18打席ぶり安打でダイヤモンドを駆け回った。

 誰もがひたむきに、泥臭く、原点にかえり、勝利の味を思い出したのだった。 =敬称略= (編集委員)

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