細田善彦出演の映画「テネメント」 なにが異色か チーム一丸で作り上げた作品について聞いた

2024年02月29日 12:00

芸能

細田善彦出演の映画「テネメント」 なにが異色か チーム一丸で作り上げた作品について聞いた
細田善彦が出演する映画「テネメント」が、3月1日に大阪で開幕する「第19回大阪アジアン映画祭」でアジア初上映される Photo By スポニチ
 俳優の細田善彦(35)が出演する映画「テネメント」が、3月1日に大阪で開幕する「第19回大阪アジアン映画祭」でアジア初上映される。
 今最も見ておきたい「特別注視部門」に名を連ねた作品は、2名のカンボジア人監督がメガホンを取り、東京とカンボジアで撮影。脚本よりも先に音の構成を作っていた異色作だ。

 撮影の1週間前にカンボジア入りした細田は日本語の台本作りにも携わった。チーム一丸となって作り上げた作品について細田に聞いた。(西村 綾乃)

 ◆ ◆ ◆

 映画は、東京で暮らしていた漫画家のソリア(ターネット・トーン)が、実母の死をきっかけに恋人のダイチ(細田)とカンボジアを訪れたことから、奇妙な出来事に巻き込まれていくミステリー。細田はカメラマン役を演じている。

 「映画の話を頂いたのはコロナ禍前。英語で書かれたスクリプト(台本)と日本語で書かれた台本を頂いたのですが、直訳されたもので僕ら日本人にとっては違和感がある言い回しがありました。監督たちは僕がカンボジアに着いたら、僕に相談しようと思っていたみたいです。撮影の1週間前にカンボジア入りして、まずは台詞を直すところから始めました。今回、ソリア(ターネット・トーン)とダイチ(細田)の会話は日本語でと台本に書かれていました。主演のターネットは小さいときに日本語を習った経験があり、簡単なコミュニケーションを取ることができました。しかし、セリフの言い回しとなると別の話。なので、異国間のカップルなら会話に英語を混ぜようという提案もありました。僕らも日常の中でOKとか言いますよね。ですが、なるべく日本語にこだわりたいという思いが制作チームにもあり、ターネットには日本語の台詞を頑張ってもらいました」

 ソックユー・チィア監督、ウンラーソティテープ・ネット監督はカンボジア。カメラマンはアメリカ人。音声を仕切ったのはフランス人。映画の最高責任者はマレーシア人と国際色豊かなスタッフで制作。現場にはクメール語、英語、フランス語などが飛び交っていたという。

 「撮影中、監督のカットがかかった後、クメールの言葉でスタッフ間が会話をしていて、良かったのか、ダメだったのかイマイチ分からないまま、次のシーンに進むこともあり、『大丈夫かな』と不安に思う瞬間もありました。でも、監督の方を向くと『OK!』という声と共に『グー!』と親指を立ててジェスチャーで示してくれて、あぁ大丈夫なんだなって。言語は分からなくても、表情とかを頼りに気持ちを悟って、言葉よりも理解し合えたようにも感じました」

 両監督から求められたのは“日本人として存在すること”。日本からの地続き感を出すために、一部の衣装は「持参した自前の洋服だった」と明かす。

 「クメールの家庭料理を最初に食べたリアクションなど、日本人の僕がどう感じるのかということを尊重していただきました。案内されたマンションの部屋でスーツケースを広げるというシーンがあった時は、最初は『ベットの上で』と演出されたのですが、『僕なら、床で広げます』と伝えたら、それを採用してくれたり。日本人としての行動に対しては、僕に任せてくれている印象を受けました」

 2020年2月に始まった撮影。当初はカンボジアでの新型コロナウィル感染者は「1名」とアナウンスがされていたが、13日にクルーズ船「ウエステルダム」がカンボジアの港に入港して以降、一変。「空港を閉鎖する」など不穏な空気が流れた。世界が未曾有の事態に巻き込まれていく中で、撮影の中断が決定。2年以上の中断を経て、東京とカンボジアで撮影が再開された。

 「カンボジアで撮影をしていた1カ月で印象に残っているのは、街で暮らしている人たちがとても若いか、お年寄りなど上の人たちが多くて、40~50代の姿が少なかったことです。映画の中には、クメール・ルージュを想起させる部分があり、気になって監督に作品を通じて政治的なことを訴えたいのか質問しました。監督は『インスピレーションはされているが、そうではない。負の遺産は、トラウマとなって、世代から世代へと受け継がれています。私たちは過去から学び生きていかなくてはいけない』と話してくれました」

 粘り強く取り組んだ作品。注目すべきは「音」と力を込める。

 「1970年から80年代のヨーロッパホラーのサウンドにインスパイアされたそうです。脚本よりも先に音の構成を作っていたと聞き驚きました。これまでのどの現場とも違ったのは、音声を必ず2回録っていたこと。動きながらの台詞と、動きなしで声だけをレコーディングする時間があって、本当に音にこだわっていました。完成した作品は、独自の音の付け方がされていて、人間の精神性を脅かすような、ゾクッとした内容になっています」

 細田がこの作品に関わり始めた2019年から、5年をかけて完成した作品は、今冬オランダで開かれた「第53回ロッテルダム国際映画祭」のザ・ビッグスクリーンコンペティション部門に出品され、ロッテルダムで世界初上映された。

 「僕も現地入りして、会場の最後列で鑑賞しました。88分の作品の中には、色んな仕掛けがあり興奮しながら見ていました。お客さんが声を出して笑ってくれたり、驚いている姿にいちいちニヤついていました。ロッテルダムのお客さんの心を動かしている感覚を肌で感じることが出来たのは僕にとって贅沢な映画体験でした」。

 上映後は、映画を愛する人たちから役名で呼ばれるなど、嬉しい体験もあった。2年ぶりに再会した監督や共演者らとロッテルダムで過ごした時間は「最高のご褒美の時間だった」と良い充電になったよう。

 映画の日本公開は未定だが、3月1日から大阪で始まる「第19回大阪アジアン映画祭」での上映が決定。細田は「まずは大阪アジアン映画祭で、日本に初上陸するので、ぜひ応援してください。僕はこの映画が大好きです。新しい僕を見てもらえると思います」と呼びかけ。細田は3日にシネ・リーブル梅田で行われる舞台挨拶に登壇を予定している。詳細は映画祭の公式サイトで確認を。

 ◇細田 善彦(ほそだ・よしひこ) 1988年(昭和63年)3月4日、東京都生まれ。2004年に、NTT東日本「キャラクターDENPO」のCMでデビュー。NHK BSなどで放送中のドラマ「舟を編む ~私、辞書つくります~」に出演中。3月16日に映画「ブルーイマジン」(監督松林麗)の公開が控えている。

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