【コラム】西部謙司
変化するコパ・アメリカ
2019年06月21日 19:15
サッカー
劣悪なピッチコンディション、暗い照明、ファウルの応酬でブツ切りになる試合の中、突然才能がスパークする・・かつてのコパアメリカにはそんなイメージがあった。アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルの3強の激突ともなれば退場者が出るのは当たり前、ただでは済まない試合になるのが恒例だった。1980年代ぐらいまでは、ヨーロッパの試合でも足を蹴ったぐらいではイエローカードなど出なかった。ましてコパアメリカともなれば、意地のぶつかり合いで蹴る、殴る、踏む、つかむ・・。単純にチーム力が上のほうが勝つとはかぎらない印象の大会だった。
整備された芝、近代的なスタジアム、スマートな運営は、かつてはヨーロッパ選手権(ユーロ)やヨーロッパ開催のワールドカップだけだった。しかし、近年はアジアカップもワールドカップと変わりないモダンな大会になり、もちろんコパアメリカもそうなっている。今大会にVARが導入されたのはコパアメリカにとってターニングポイントになるかもしれない。
喧嘩サッカーがある意味コパアメリカの醍醐味だった。相手のエースには容赦のないファウル、ファウルされるほうも海千山千なので蹴られてないのにPK狙いでダイブする選手も数多く、そんなこんなの騙し合いだから、ファウル1つで両軍入り乱れての乱闘、混乱はつきもの。そんな中で冷静さを保ち、あるいは逆にアドレナリン大放出で、スーパースターたちが真価をみせる――そういうこの大会の様式美のようなものが、VARの登場でかなり変質している気がする。
0-0で引き分けたブラジル対ベネズエラでは、ブラジルの2つのゴールがVARによってノーゴールと判定された。かつてなら大混乱必至である。ところが、ほとんど揉めることもなく試合は続けられた。ウルグアイ対エクアドルでは20分でエクアドルのキンテーロが肘打ちで退場になっているが、このときもさほど混乱はなし。ヨーロッパでプレーしている選手たちがVARに慣れていることもあるだろうが、映像に証拠が残っているので諦めがついているのだと思う。かつてのようなゴネ得は通用しないからだ。
純粋にプレーで決着をつける。サッカーとしてはこのほうが正常なのだが、コパアメリカとしては何だか物足りない気もしてしまうから不思議だ。VARも含めて、南米もすっかりモダンになった。しかし、やはりそこからはみ出してくるものがありそうな気配も依然としてある。いや、そうでなければコパアメリカではない。それが何かは大会が進むにつれて、きっと明らかになるに違いない。(西部謙司=スポーツライター)