【コラム】西部謙司
体力勝負とペース配分
2021年07月21日 18:30
サッカー
高温多湿で、おまけに試合日程は中2日という過酷さだ。7人制ラグビーと同じとはいわないまでも、サッカーは元来走るスポーツだから体力勝負の面は出てくるだろう。
ただ、体力勝負だけでは無理である。上手くペース配分が出来ないと戦えない。
オーバーエイジが加わってからの日本五輪代表男子チームは格段に進歩した。とくに攻撃から守備への切り替えが速くなり、敵陣であっというまにボールを奪い取るシーンをよく見るようになっている。プレー強度が増し、それは日本のストロングポイントといっていい。
しかし、東京五輪で高強度のプレーを90分間続けるのは難しそうだ。大会前、最後の強化試合となったスペイン戦でその課題が見えていた。
スペインはパスワークが抜群で、いったんキープされたらそう簡単には奪えない。これまで対戦したことのないレベルの相手だった。日本は前半に堂安律のゴールで先制したが、後半は一方的に攻め込まれて追いつかれている。ディフェンスライン近くまで、ほとんどボールを奪う機会がなかった。スペインが相手だと、パスを受ける選手に対して1メートルぐらいまで寄せないとプレッシャーはかからない。つまり相手はミスをしない。ミスをしなければゴール近くまでボールを運ばれる。日本はシュートかラストパスされるまでボールに触れない状態になっていた。
そこまで押し込まれる前に、どこかで1メートルまで寄せて奪うためのスイッチを入れたかった。だが、スペインはそうさせてくれなかったし、体力的にも難しかったと思う。逆に日本がキープしたときには、やはりスペインもそこまで寄せ切れてはいない。つまり、ボールを保持したほうが有利だった。サッカーはもともとそういうものではあるけれども、高温多湿は守備の強度を奪うのだ。
敵陣でプレーしていれば、日本のハイプレスは効果的だと思う。早く奪ってしまえば結果的に押し込まれるより体力的にも楽だ。ただ、そう簡単にプレスが効かない相手もあるわけで、そのときは引かざるを得ないのだが、スペイン相手に引いたらボールを奪う機会がなくなったわけだ。そうなると、攻撃でいかにミスを減らすかがカギになる。スペインのようにミスを期待できない相手ならなおさら。ボールを支配することでペース配分が可能になり、敵陣での高強度の守備につなげることができる。
東京五輪は体力勝負ではあるけれども、ただ走ればいいわけではなく、いかに走らないで体力をセーブするか。いつ強度が上げ、いつ上げないか。その判断とそのための技術がポイントになりそうだ。(西部謙司=スポーツライター)