【コラム】西部謙司
東京五輪1年延期で得たメリット
2021年06月09日 16:15
サッカー
2020年1月に開催されたAFC U-23選手権で国内組を中心に編成して1分2敗、最下位でグループリーグ敗退。ここから国内組と海外組の融合、さらにオーバエイジの加入という流れで東京五輪に臨む予定だったから、今年6月の段階とは比較できないにしても、強化が順調とは言い難かった。国内組の3バックと欧州組の4バックの融合にも暗雲が漂っていた。
五輪が1年延期され、その間にいくつかの変化があった。
遠藤航がA代表で不可欠な存在に浮上している。1年前なら、ブンデスリーガのデュエル王がオーバーエイジとして加入することはなかったのではないか。Jリーグでは三笘薫が台頭した。旗手怜央、上田綺世、田中碧の成長もあった。
チームとしてのプレースタイルも2020年とは段違いだ。
とくに良くなったのがトランジション。攻撃から守備、守備から攻撃の切り替えが格段に速くなってプレー強度が増している。これはコンセプトを共有しているA代表も同じで、3月の強化試合から大きく変化した。
敵陣でボールを失ったときのプレスバックの速さが進歩した。ボールを持って攻撃に移ろうとしている相手の背後から一気に寄せていく。ボールホルダーの死角から襲い掛かっていくので非常に効果的なのだ。これは強豪国と対戦するワールドカップを想定しても日本の生命線になる部分だと思う。
ワールドカップ予選でA代表が大量得点を繰り返しているのも、この守備の進歩が寄与している。いわば格下を相手にあそこまで容赦のない戦い方になっているのも、トランジションの速さがプレーのリズムになっているので、そこを緩められないのだ。緩めてしまえば、違うチームになってしまってチームの性格が変わってしまう。3月からの日本は仕上げられたマシーンのような状態といえる。緩められないし、緩めないのが正解である。
U-24もオーバーエイジが加入してA代表のキャラクターと同じになった。東京五輪ではなかなか厳しいグループになったが、切り替えの速いスタイルが強豪国を相手にどの程度の効果を発揮するか興味深い。
1年前には森保一監督がかつて率いていたサンフレッチェ広島の3-4-2-1を国内組のメインシステムにしていて、A代表の4-2-3-1との齟齬があった。現在はどちらも4-2-3-1でプレースタイルも共通している。A代表と五輪代表がスムーズに融合できる道筋もつけられた。1年の延期は日本にとって良いほうに作用している。(西部謙司=スポーツライター)