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“幻”追いマス ヒメマス?クニマス? 20センチ、ヒットも見た目そっくり 山梨・西湖で挑戦(下)

2024年05月09日 04:30

社会

“幻”追いマス ヒメマス?クニマス? 20センチ、ヒットも見た目そっくり 山梨・西湖で挑戦(下)
劇中で描かれたクニマスの群れと、ボートの上から狙う三平と魚紳ら(C)矢口高雄/講談社 Photo By スポニチ
 【「釣りキチ」誕生50年 三平探訪】釣り漫画の名作で、誕生50年を迎えた「釣りキチ三平」ゆかりの地や対象魚を追うルポは、戦前に絶滅したとされながら2010年に山梨・西湖で見つかったクニマス釣りの後編。発見から14年が過ぎ、徐々に明らかになってきたその姿。だが釣り人にとって永遠に“幻の魚”かもしれない、ある理由があった。(岩田 浩史)

 クニマス釣りは近縁種のヒメマス狙いが近道。実際ヒメマス釣りでは約1割クニマスが交じるという。

 その日はヒメマスの活性が低く、ワカサギ釣りにのめり込んでしまった記者。いかん。本来の標的クニマスの姿を思い浮かべ、ヒメマス竿をあおる。

 クニマスは2001年発表「釣りキチ三平 平成版」にも登場。西湖での発見に先立ち三平が釣り上げた。絶滅前に国内の複数の湖に放流された事実も描かれ、読者に「どこかで生きているかもしれない」と夢を抱かせた。だが作者の矢口氏は「一つの種を滅ぼした人間の愚かさを描きたかった」と生存は期待していなかったという。それだけに、親族によると発見の際は「まるでボクの漫画だ」と大喜びしたそうだ。

 時々、竿をあおりヒメマスを誘うが反応は渋い。「イクラは白くなったら替えてね」と釣り宿・松屋の三浦喜保店主。ふやけていく餌を替え続ける釣りは切ない。ヒメマス竿の存在を忘れかけた頃だった。ちょんちょんと動いた穂先が次の瞬間、不自然にピンと伸びた。「食い上げかな?来たかもね」と三浦さん。ヒメマスは餌を口に含むと急浮上することが多い。軽く合わせを入れると、ワカサギと違い明らかに魚が掛かった重み。リールを巻くと水面に浮かぶ銀鱗(ぎんりん)の輝き。「ヒメマスは唇弱いから、ボートに入れて!」。湖に落とさぬよう足元に運んだ。やった!20センチ弱のヒメマス!「いやいやクニマスかもよ」と笑う三浦さん。どう見てもヒメマスだが、その意味を後で知ることになる。

 結局ヒメマスはこの1匹に終わり、クニマスの姿は拝めなかった…と思いきや「実は3月に釣ったクニマスらしき魚が冷蔵庫にある」と三浦さん。店に戻ると30センチ強の魚を出してくれた。記者のヒメマスと違い、鼻先がピンと張った力強い顔つき。ヒメマスも成長すれば同様になるが、問題は黒っぽい体色。「西湖ではヒメマスも婚姻色は黒。ただ、この時季に黒いのはクニマスだと思う」という。サケ科の大半が秋~冬に産卵するが、クニマスは冬から春先。

 見た目はそっくりだ。顕著な違いは内臓にあり、エラ内でプランクトンをこし取る「鰓耙(さいは)」が多く、消化器「幽門」数が少ない。クニマスは確かにいる。だが「見ただけでクニマスと断言するのは学者でも難しい」。その意味で今も“幻の魚”だ。

 ただ、だからこそ生き延びられた面もある。見た目に珍しければ乱獲や密漁の被害に遭いかねない。二度と絶滅の危機にひんしないためにも今のままがいいのかもしれない。そんなことを思いながら西湖を後にした。

 ▼交通 富士急行河口湖駅から西湖民宿行きバスで西湖渡船場下車。宿に連絡すれば送迎あり。または河口湖駅から西湖方面行きレトロバスを利用し、小津原、松屋前で下車。自動車は中央自動車道河口湖ICから約15分。

 ▼釣況 東日本釣宿連合会所属、西湖・松屋=(電)0555(82)2501。ヒメマスとワカサギの入漁料は男性1700円、女性850円。手こぎボートは1人乗り3000円から。宿泊料は2食付き8000円(税別)。両魚の春の解禁期間は3月20日~5月31日、秋は10月1日~12月31日。

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